第385話 旋斧の異変
――火山に潜む火竜が動き出したころ、討伐隊は既に火山の麓まで迫っていた。しかし、あまりの熱気にこれ討伐隊は苦渋の表情を浮かべ、これ以上の接近は出来なかった。
「くうっ……何て熱さだい、これ以上に進めば全身火傷しちまうよ」
「アルト王子から貰ったマントのお陰で助かりましたね……こんな場所で金属の鎧を身に着けて歩くなんて自殺行為ですよ」
「レッドゴーレムも見かけなくなった……そこが逆に不気味」
討伐隊は全員が事前に用意していた熱耐性に高い装備品に着替えており、ナイ達の場合はとある魔物の素材から作り出されたマントで身体を覆っていた。熱耐性だけではなく、耐火性にも優れているらしく、仮に火を放つ魔物の攻撃でも多少は防ぐ事が出来るという。
名前は「アカノマント」という非常にシンプルな名前だが、その効果は抜群でナイ達はマントのお陰で肌が火傷せずに進む事が出来た。しかし、流石にこれ以上の行軍は危険だった。
「王子様、これ以上に先に進むとなれば人数を減らした方が良いかと……既に疲労で動けない者もおります」
「分かっている。今から隊を分けて……」
マジクの言葉を受けてバッシュは火山の調査の前に選抜を行おうとした際、突如としてビャクは起き上がると、何かを警戒する様に唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「ビャク?どうしたの?」
「どうしたんだい、また敵かい!?」
「レッドゴーレムが近くに隠れているのですか!?」
ビャクの反応に気付いたナイは驚き、他の者達も警戒態勢に入る中、ビャクは危険を知らせる様に何度も鳴き声を放つ。
「ウォンッ!!ウォオオンッ!!」
「ビャク、落ち着いて!!」
「だ、大丈夫?」
「いったい何だってんだい?」
落ち着きのないビャクをナイは宥めようとするが、ビャクは焦った様子で鳴き声を放ち、その反応から只事ではない事は察知できた。
全員が周囲を見渡して魔物の姿を探すがそれらしきものは見当たらず、念のために地面から現れるのかと警戒するが、特に変化はない。だが、ビャクは忙しなく鳴き声を放ち、その様子を見てナイは敵が近付いている事を察する。
「多分、敵が近付いています!!」
「多分?多分とはどういう意味だ?」
「分からないんです!!ビャクがここまで動揺するなんて初めてで……うわっ!?」
「な、何だい!?」
ナイが唐突に大声を上げると、彼の背中の旋斧が唐突に震え出し、慌ててナイは旋斧を引き抜く。いったい何が起きているのか旋斧の刃が振動し、それを見たナイは戸惑う。
(何だ、これ……!?)
唐突に動き出した旋斧にナイは戸惑い、かつて岩砕剣を手に入れた時に旋斧が震えた事はあったが、あの時以上に刃が震え、落ち着く様子がない。
まるで草食の小動物が肉食獣を前にしたら恐れるあまりに身体を身震いさせるように、旋斧が怯えているようにナイは感じた。狩人だからこその発想であり、ナイはビャクも旋斧が恐れている存在を感じ取ったのかと思う。
(上から……何かが来る!?)
危険をいち早く察したナイは火山を見上げると、そこには異様な光景が広がっていた。まだ距離はあるが、巨大な生物が山を駆け下りてナイ達の元へ接近していたのだ。
――シャアアアアアッ……!!
その声を聞いた瞬間に討伐隊の全員が身体を震わせ、歴戦の猛者であるテンやマジクですらも戦慄した。火山の頂上から凄まじい速度で自分達の元に駆け降りる火竜の姿を目撃して全員が恐怖した。
まるでライオンを前にした兎のような心境に全員が陥る中、ビャクだけは既に火竜の接近に気付いており、すぐに咆哮を放つ。
――ウォオオオオンッ!!
ビャクの咆哮を耳にして身体が硬直していた者達も驚いて彼に振り返り、ここで自由に身体が動けるようになった。ナイはすぐにビャクに視線を向け、自分が取るべき行動を行う。
「っ……ビャク、走れ!!」
「ウォンッ!!」
「ナイ君!?」
「何をする気だい!?」
ナイはビャクに命令すると、火竜に目掛けてビャクを走らせた。その様子を見ていた者達は慌てて止めようとしたが、白狼種であるビャクに移動速度で敵う馬などいない。
火竜に目掛けてビャクは駆け出すと、火竜は山に登ってきた者達の中で最も生命力に溢れた白狼種のビャクを最初の標的に定め、進路を変更させてビャクの元へ向かう。
「シャアアアッ!!」
「早いっ……けど、負けるなビャク!!」
「ウォンッ!!」
ナイの言葉に呼応するようにビャクは方向転換を行い、そのまま山を駆け下りて討伐隊から離れる。その行動の意味を察したテン達は目を見開く。
「まさかあんたら、自分を囮にするつもりかい!?」
「無茶なっ……殺されるぞ!!」
「時間は稼ぎます!!皆さんは急いで離れて!!」
ビャクの背中の上のナイは一刻も早く討伐隊に逃げる様に促すと、ビャクと共に山を下りて逃げ出す。火竜は討伐隊には目もくれず、ビャクとナイの後を追う。
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