第386話 火竜との戦闘
――魔獣種の中でも希少種として有名な白狼種だが、実際の所は彼らの詳しい生態はあまり知られていない。しかし、子供の頃から一緒にいるナイだけは白狼種の長所を理解していた。
ビャクは子供の頃から普通の狼と比べても足が速く、しかも成長して身体が大きくなるにつれて移動速度がどんどんと上昇していく。肉体が大きくなった事で筋力も成長し、より素早く動けるようになる。
現在のビャクならば本気で駆け抜ければ火竜ですらも簡単には追いつけず、そもそも火竜の場合は基本的には翼を使用して移動する事が多かったため、地上では早く走る事が出来ない。そのため、ナイはビャクに移動速度を抑えて逃げる様に促す。
「ビャク、離れすぎたら駄目だぞ。他の皆が逃げる時間を作らないと……」
「ウォンッ!!」
「シャアアッ!!」
火竜はビャクの後方を追尾するが、一向に追いつけない事に苛立っており、遂には我慢の限界を迎えたのか胸元を赤色に光り輝かせる。
「アガァアアアッ……!!」
「何だ……まさかっ!?ビャク、跳べっ!!」
「ウォオンッ!!」
ナイの言葉に反応してビャクは跳躍を行い、一気に加速して距離を取る。その判断は間違ってはおらず、火竜は胸元を赤色に発行させると、やがて口内から火属性の魔力の塊を放つ。
火竜の放った火球は先ほどまでビャクが存在した位置に衝突すると、凄まじい爆発を引き起こし、まるで隕石でも落ちたかのようなクレーターを作り上げる。もしも直撃していれば無事では済まず、ナイもビャクも死んでいただろう。
「何て威力……あんなの喰らったらひとたまりもないぞ!?」
「グルルルッ……!!」
事前にナイが危険を察してビャクを跳躍させていたので攻撃を避けられたが、火竜の方は自分の
昨夜にレッドゴーレムの火炎放射を見ていた事でナイは咄嗟に対応できたが、レッドゴーレムと違って火竜の場合は火属性の魔力を火球へと変換させて打ちこむため、常に炎を吐き続けるわけではない。しかし、連射も可能なのか今度は大きさを縮小化させた火球を次々と放つ。
「アガァッ!!」
「うわっ!?避けろ、ビャク!!」
「ウォオオンッ!!」
まだナイとビャクは山を下り切ってはおらず、あちこちに存在する岩石を足場に次々と飛び移る。火球は岩石を溶解させるほどの威力があるため、盾代わりに利用する事も出来ない。
「アガァッ……ガハァッ!?」
「おっ……弾切れか?」
しかし、数発ほどの火球を放つと火竜の口元から煙が放たれ、咳き込む。その様子を見てナイはビャクの足を止めさせ、様子を伺う。
火竜は煙を口元から漏らしながらもビャクとナイを睨みつけるが、明らかに弱っていた。大型ゴーレムとの戦闘や、先ほどまで溶岩の中で沈んでいたせいで怪我も悪化し、体力も減っていた。
無敵に思われた火竜ではあったが、弱り切った状態の火竜を見てナイは考え直し、ビャクに提案を行う。
「ビャク……こいつと戦えるか?」
「ウォンッ……!?」
「手負いの獣ほど厄介な存在はいないと爺ちゃんは言ってくれたけど……こいつを倒さない限りはこの国が大変な事になるんだ」
狩人だったアルからはナイが狩猟を行う際、手負いの獣の場合は慎重に対処しろと教わっていた。怪我を負った獣は追い込まれると何をしでかすか分からず、時には死を覚悟して襲い掛かる。死ぬ事を前提に戦う獣ほど厄介な相手はおらず、ナイも嫌という程によく知っている。
しかし、火竜を倒せばこの国の脅威はいなくなり、そしてナイ達の前に現れた火竜は既に大怪我を負っていた。翼はもがれ、吐息も碌に吐き出せない程に体力と魔力を消耗しており、今ならば反撃の好機であった。
(火竜相手に何処まで通じるのか分からないけど……やるしかない!!)
ナイは火竜に対抗するためには自分の最高の一撃を加えるしかないと思い、ここでビャクの耳元に口を近づけて作戦の内容を話す。その内容を耳にしたビャクは驚いたが、ナイはこれしか方法はないと思った。
「頼んだぞ、相棒」
「……ウォンッ!!」
信頼する主人の言葉であるならばビャクは逆らう理由はなく、指示に従う。ナイはこの時に懐から出発前にアルトに渡された特製の魔道具を取り出す。本来は大型ゴーレムに使用するための魔道具だが、背に腹は代えられない。
『いいかい、ナイ君。これを取り扱う時は注意してくれ。下手をしたら君自身を氷漬けにしてしまう危険な代物なんだ』
『う、うん……気を付けるよ』
『すまないね、こんな試作品しか用意できなくて……そうだ、ついでにこれも渡しておくよ。万が一の場合はこれを飲んでくれ』
ナイはアルトから魔道具を受け取った時の事を思い出し、彼から貰ったもう一つの道具を取り出す。アルトがナイに渡したのは大型ゴーレムを倒すための魔道具と、もう一つは青色の液体が入った小瓶だった。中身は魔力回復薬であり、ナイは戦う前にそれを口に含む。
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