第384話 手負いの火竜

火口から生還を果たした火竜ではあったが、やはり大型ゴーレムとの戦闘での負傷が激しく、身体を動かすのもやっとの状態だった。火竜は自身の怪我を治すため、餌が必要だと判断する。


火竜が好む餌は火属性の魔石であり、火属性の魔石は火竜にとってはただの好物ではなく、火竜の力の源といっても過言ではない。魔石に蓄積されている火属性の魔力を吸収すればするほどに火竜は成長し、より膨大な魔力を肉体に宿す事が出来る。


だが、火属性の魔力をいくら吸い上げても怪我の類は治す事は出来ない。怪我を治療するのに最適なのは「聖属性」の魔力であり、大量の聖属性の魔力を摂取すれば火竜は自己再生で怪我を治す事が出来た。


しかし、火山のような場所では聖属性の魔石は回収する事は出来ず、そもそも火竜は火属性以外の魔石を食すことが出来ない。仮に火竜が他の属性の魔石を喰らった場合は体内の魔力が暴走し、最悪の場合は死に至る。ならばどのような方法で聖属性の魔力を吸収するのか、その答えは火竜はよく知っていた。





――聖属性の魔力は聖者を喰らう事で吸収する事が出来る。実際に過去に火竜は負傷したさい、他の生物を喰らう事で聖属性の魔力を吸収し、肉体の再生を行ってきた。





聖属性の魔力はであるのならばどんな存在でも身に宿すため、火竜は怪我を負った時だけ他の生物を食す。普段は火属性の魔石を喰らう事で生命を維持できるが、肉体が破損した時に限って火竜は生物を喰らう。


だが、例外として火竜は休眠状態に陥ると何十年、下手をすれば100年以上も眠り続ける。そして目を覚ました時に眠っていた分の間に消耗していた聖属性の魔力を求めて大虐殺を行う。


歴史上で人間に大きな被害を与えた火竜の殆どは休眠状態から復活を果たし、聖属性の魔力を求めて暴れた個体ばかりだった。だが、逆に言えば基本的には火竜は聖属性の魔力が欠乏しない限りは他の生物を襲わない。


しかし、生存本能が優れた魔物ほど火竜の復活の時期を迎えると無意識に逃亡する事が多く、特に一角兎のような力が弱い魔物ほどその影響を受けやすい。王都周辺で一角兎が全く見られなくなった原因は火竜であり、彼らはいち早く火竜の存在を察知して逃げ出したのだ。




――ここまで討伐隊が移動する際中、普通の魔物が一切見当たらなかった真の理由は火竜が復活を果たしたからであり、生存本能が優れた魔物達は既に危険を察して逃げ出したからである。


魔物と比べて危機感知能力が低い人間達だけであり、火竜が休眠から目覚める度に最も人間が被害を大きかった理由、それは人間が野生の魔物と違って生存本能が低いのが原因だと言えるかもしれない。




傷を負った火竜は周囲を見渡し、並外れた生存本能と直感だけで火竜は火山に接近する討伐隊の存在を感じとる。火竜は自分の怪我を癒すため、生物を喰らって聖属性の魔力を得る必要があり、討伐隊を最初の獲物と認定した。



「シャアアッ……!!」



火竜の翼は大型ゴーレムとの戦闘でもがれたので飛ぶ事は出来ないが、獣のように四つ足で駆け出し、討伐隊の元へ向かう。災害の化身とまで恐れられる存在が討伐隊へ迫ろうとしていた――






――だが、火竜は気づいていなかった。この時に別の場所から火口に接近する存在が居た事を。後々に火竜はこの存在を見逃した事が大きな仇となるが、その事に気付かずに火竜は餌を求めて火山を降りた。





※短いですがここまでにしておきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る