第358話 三連突き

『それではこれより試合を開始します!!まさかのクロノ選手の対戦相手はあの黄金級冒険者リーナ選手です!!果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか……試合、開始!!』



試合開始の合図の鐘の音が鳴り響き、即座に双方は動き出す。まずは相手の様子を伺うためにナイは後ろへ下がって岩砕剣を構えた。


今回の試合は岩砕剣がナイに相応しいかどうかを見極めるための試合であり、主要武器として岩砕剣を利用するのは当然だった。だからこそナイはテンに稽古をつけてもらい、大剣の扱い方の基礎を学ぶ。



(あの時の感覚を思い出すんだ……)



ナイはテンに最後に与えた一撃を思い返し、あの時の感覚を忘れない様に岩砕剣をしっかりと握り締める。それに対してリーナの方は10メートルほど離れた場所から動かない。



(ナイ君か……確かに普通の子じゃなさそう。なんというか、不思議な雰囲気を纏っている気がする)



リーナの方はナイを見た時から直感で只者ではないと感じ取っていた。一流の武人の勘という奴か、リーナは本能でナイが普通の人間ではないと悟る。


しかし、相手がどんな敵であろうとリーナは戦うと決めた以上は退くつもりはなく、彼女は意を決したように槍を構えた。距離は離れているが、彼女は足元に力を込めて接近した。



「行っくよぉっ!!」

「っ――!?」



ナイの視点ではリーナが大声を上げた瞬間、まるで瞬間移動のように距離を詰めてナイに槍を繰り出す体勢に入っていた。あまりの速度にナイは咄嗟に岩砕剣で振りかざすが、その前にリーナは槍を突き出す。



「はああっ!!」

「くぅっ!?」

『出たぁっ!!リーナ選手のお得意、三連突きです!!』



残像を生み出す速度で超高速に繰り出された槍がナイに襲い掛かり、偶然にもナイが振り翳した大剣が盾代わりとなって攻撃を防ぐ事に成功した。しかし、完全には全ての攻撃は防ぐ事が出来ずにナイの頬と首筋に掠り傷が走る。


リーナが繰り出した槍はナイの頭部、喉、胸元を狙って突き出された。確実に急所を狙ってきた攻撃に対してナイは岩砕剣で身を守るが、防ぐ事が出来たのは胸元だけで頭部と首筋に関しては反射的にナイが顔を反らした事で直撃は避けられた。



(なんて速さだ!?)



先日に戦ったリンも素早かったが、リーナの槍の速度は彼女の居合にも匹敵し、しかも居合と違って攻撃回数が多い。一方でリーナは自分の攻撃を辛うじて耐え抜いたナイに笑みを浮かべる。



「流石にやるね、けど今度は全力で行くよ!!」

「くっ!?」



先ほどの攻撃は全力ではなかったのか、リーナは槍を構えると今度は無数の突きを繰り出す。先ほどは残像を生み出す速度で繰り出してきたが、今度は速度を落として連続攻撃へと切り替えたらしく、凄まじい猛攻撃でナイを追い詰めていく。


リーナの攻撃に対してナイは大剣を盾代わりに防ぐが、徐々に攻撃を全て捌ききれずに身体のあちこちに掠り傷が走る。これほどの槍の使い手と戦うのは初めての経験であり、しかも旋斧ほどに使い慣れていない岩砕剣では反撃も難しい。



(何とか距離を取らないと……ここだ!!)



繰り出される槍を見切る事は出来ないが、ナイは槍を操るリーナに視線を向け、彼女の腕の動きを観察眼の技能で読み取り、事前に攻撃の軌道を予測する。リーナが攻撃を繰り出そうとした瞬間、左手に装着していた反魔の盾を構えた。



「このぉっ!!」

「うわぁっ!?」

『は、弾き返した!?リーナ選手の攻撃をクロノ選手、弾き返しました!!』



反魔の盾にリーナの槍が衝突した瞬間、衝撃波が発生して彼女の身体は後ろへと下がる。リーナは槍が弾かれた際に腕が痺れ、何が起きたのか分からずに戸惑う。


どうにか反魔の盾のお陰でリーナと距離を作る事に成功したナイは安堵するが、あまり喜んでいる場合ではなく、これからどうするべきか考えなければならなかった。



(この子の攻撃、早過ぎて捉えきれない……岩砕剣だと分が悪い)



リーナの槍の速度は尋常ではなく、仮に反魔の盾がなければナイはあのまま対抗できずにやられていたかもしれない。反魔の盾に救われた形となったが、これでリーナに盾の能力を知られてしまう。


もう同じ手は通用せず、今度からはリーナも反魔の盾を警戒して攻撃を仕掛けてくるだろう。ならばナイも彼女に対抗する手段を考えなればならないが、リーナと戦うためには彼女の攻撃をどうにかしなければならない。



(岩砕剣のように重量のある武器は一撃の威力に特化するけど、連続攻撃には向かない。もしもまた距離を詰められたらこっちがやばい……けど、近づかないと勝ち目はない)



もしもリーナが距離を詰めて先ほどのように反撃する暇も与えずに矢継ぎ早な攻撃を繰り出されたらナイに勝ち目はない。しかし、近づかなければナイにも勝機はなく、彼は岩砕剣を振りかざしてリーナへと迫る。

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