第357話 黄金級冒険者との戦闘

『それではこれより試合を開始致します!!本日の実況を務めるのは私、アリアで~す!!』

『アリアちゃ~んっ!!』



実況席にはナイの試合の時も解説を行っていた兎型の獣人にしてバニーガールの格好をしている女性だった。どうやら男性客からの人気は高く、彼女が手を振るだけで男性客は騒ぎ出す。



『それではまずはのご紹介を致します!!闘技場に現れた期待の新人、クロノ選手です!!』

『うおおおおっ!!』



改めて紹介が行われると観客は騒ぎ出し、その一方でナイはアリアの説明を聞いて疑問を抱く。昨日に試合に出場した時は彼女はナイの事を「挑戦者」などという言葉は使わなった。


挑戦という言葉にナイは引っかかりを覚えると、ここで遂に城門が動き始めた。やっと対戦相手が訪れたのかとナイは身構えると、城門の内側から現れた人物を見てナイは戸惑う。



「えっ……!?」




――城門から出てきたのは青色に光り輝く刃の槍を携えた赤髪の少女であり、その少女を見た瞬間に観衆は唖然とした。その一方で赤髪の少女はナイを見ると、少し驚いた表情を浮かべる。




唐突に現れた少女に対してナイは戸惑い、この試合の対戦相手は聞かされていなかったとはいえ、相手が女子だとは思いもしなかった。しかし、少女の方はナイを見て期待する様な視線を向ける。



「君がナイ君だね……お父さんから色々聞いてるよ?」

「えっ……お父さん?」

「僕の名前はリーナ・アッシュ!!今日は思う存分戦おうね!!」

『おおおおおおっ!!』



リーナが名乗りを上げると観衆は大歓声を上げ、男女関係なく彼女に声援を送る。その反応を見てナイは驚き、一方でリーナの方は槍を手元で振り回しながら楽しそうな表情を浮かべた。


闘技場の管理者でもあり、公爵家でもある「ミドル・アッシュ」そのアッシュには一人娘が存在し、彼女のこそ歴代最年少で黄金級冒険者に上り詰めた「リーナ・アッシュ」だった。黄金級冒険者の中では一番の若手ではあるが、その実力は確かで王都の住民からも人気が高い。




――彼女は冒険者になった後も定期的に闘技場に参加し、多くの人々が彼女の実力を自分の目で確かめた。これまでに闘技場に参加した試合数は100を超え、その内に敗北した回数は2回のみ、しかも相手は現役の黄金級冒険者である。




つまり、リーナは自分と同格の冒険者を除けば一度も魔物や他の参加者を相手に敗北した事はない。しかも彼女が最後に負けたのはもう1年以上前の話であり、現在の彼女は1年前よりも確実に強くなっている。


そして何よりもリーナが手にしている槍もただの槍ではなく、アッシュ侯爵家に伝わる「魔槍」だった。彼女はこの槍でかつてサイクロプスと呼ばれる魔人族を討ち果たし、黄金級冒険者に昇格を果たした。



「リーナだ!!俺達のリーナがまた闘技場に戻って来たぞ!!」

「まさかクロノの対戦相手がリーナだったなんて……くそぉっ!!リーナが出場するなら賭けなかったのに……」

「ははは、そう落ち込むなよ。クロノの奴が何処まで戦えるか見ものだぜ」

「いや、俺はクロノを応援するぜ!!あいつならきっと奇跡を見せてくれるはずだ!!」



殆どの人間がリーナを応援する中、ナイの勝利に賭けていた者達の中には半ば自棄になって彼に声援を送る人間もいる。そして観客席で試合場の様子を見ていたアルト達もナイの対戦相手がリーナだと知って動揺していた。



「父上め……リーナを出すなんて、大人げないぞ」

「こいつはどうなるか見ものだね……」

「ど、どうしよう……どっちを応援すればいいの!?」

「ナイ君……大丈夫かしら」



アルト達は全員がリーナと顔見知りであるため、最初はナイを応援するつもりだったモモも困った表情を浮かべて二人を交互に見つめ、アルトも冷や汗を流す。先日にリーナがナイと戦いたいという話は聞いていたが、まさかこのような形で実現するとは思わなかった。


リーナとナイをアルトが戦わせたくはなかったのは本物の武器だと互いに傷つけあう恐れがあるため、ただの試合という形で二人を戦わせようと思っていた。しかし、闘技場では持参した武器で戦う事が義務付けられており、この場合は二人は自分の所持する武器で戦わなければならない。


闘技場の規則では試合は相手を戦闘不能に追い込む、あるいは降参を宣言させる、もしくは試合場から逃れるの3つしか存在しない。そして今回の勝負でナイは負けたら岩砕剣は没収されてしまう。


アルトは今更ながらに自分の父親の情報収集力を舐めていたと知り、恐らくだが国王はリーナがナイと戦いたい事を事前に知っていた。だからこそアッシュ公爵を説得してリーナを急遽対戦相手に用意したのだろう。


アッシュ公爵としては国王の命令に逆らうわけにもいかず、それにリーナも念願のナイと戦えるというのであれば拒否するはずがない。試合場の彼女は嬉しそうにナイを見つめ、一方でナイの方は戸惑いの表情を浮かべていた。

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