第348話 岩砕剣の真の力

「こいつは……どういう事じゃ?いくら重くなっても普通はこんな風に地面がめり込むなんてあり得んぞ……」



ハマーンはクレーターのようにめり込んだ地面を見て疑問を抱き、普通の剣であれば重量を増せば刃の部分が地面の中に埋まる事はあるだろう。しかし、岩砕剣の場合は違う。


岩砕剣が振り下ろした場所にまるで衝撃波でも発生したかの様に剣の周囲の土砂が吹き飛び、まるで隕石がおちたかのようなクレーターが出来上がった。この事からハマーンはある推測を立てる。



「もしかしたらその岩砕剣の本当の力は……刃にため込んだ地属性の魔力を解放する事かもしれん」

「え?魔力を解放する……?」

「なるほど、そういう事だったのか。流石はハマーン技師、僕も違和感をずっと抱いていたんですが、そこまで辿り着けませんでした」



ナイはハマーンの言葉を聞いても不思議に思うが、アルトは何かを察したのか彼の持っている岩砕剣に視線を向け、推察を行う。



「恐らくだが岩砕剣の能力は地属性の魔力を刃に蓄積させる事で重量を増加するだけではなく、その魔力を一気に解放する事で衝撃波……いや、この場合は重力を拡散させるといった方が正しい」

「え?じゅ、重力?」

「それって、高い所から物を落としたら地面に落ちる時に加速する力の事……?」

「少し違うけど、まあ似たようなものかな。ミイナの言う通り、重力とは上から下に引き寄せる力だと考えればいい」



アルトは地面の様子を観察し、この時にナイが岩砕剣を振り下ろした際、土砂は周囲に飛び散らずに下の方に押し潰されたように見えた。



「ただ衝撃波を発生させるだけならここら中に土砂が飛び散っているはずだ。でも、ナイ君が振り下ろした時に土砂は飛び散る事もなく、地面の中に押し込まれた。この事から考えられるのは岩砕剣が生み出したのはただの衝撃波じゃない、重力なんだ」

「良く分からないけど……その、重力が発生したから地面はこんな風になったの?」

「ああ、どうやら岩砕剣は蓄積した魔力を解放すると重力を生み出す。だからこそ土砂は飛び散るのではなく、上から押し潰されたんだろう」

「ふむ、これは面白いのう……風圧を生み出す魔剣ならばいくつかあるが、重力を生み出す魔剣など聞いた事もない」



二人によると岩砕剣の真の能力は重力そのものであり、重力を生み出す事で敵を「圧殺」させる事も出来る。だが、そのためには刃に十分な魔力を蓄積させなければならず、相当な怪力の持ち主でないと岩砕剣を使いこなせない。


ナイは岩砕剣に視線を向け、改めてこの剣の恐ろしさを知る。恐らくだが旋斧を越える破壊力を秘めており、この魔剣ならばトロールとの戦闘でも小細工抜きで倒せたかもしれない。



「…………」

「ナイさん?どうかしたんですか?」

「剣をじっと見て……何か気になる?」

「あ、いや……気のせいかな、何だか妙に手に馴染んだような気がして……なんでだろう?」



岩砕剣をナイが扱うのは二度目のはずだが、何故かナイはずっと昔から使っていた様に手が馴染む気がした。ここでナイはすぐに岩砕剣の柄に視線を向け、旋斧の柄とよく似ている事に気付く。



(この柄……もしかして旋斧と同じなのかな?でも、爺ちゃんの話だと旋斧は爺ちゃんの家系に伝わる家宝だし……ただの偶然かな)



アルの家系に伝わる家宝「旋斧」そして王城に保管されていた岩砕剣に何らかの繋がりがあるとは思えず、ナイは気のせいだと思う。だが、この時に彼の背中に背負っていた旋斧は僅かに震えている事に誰も気づかなかった――





――その後、ナイは何度か岩砕剣の能力の使用を頼まれ、アルトとハマーンの前で剣を振る。その結果、分かった事は岩砕剣は使用者の意志に従って魔力を解放する事が判明した。


ナイが最初の素振りで地面にクレーターを作り上げた時、彼は無意識に岩砕剣の内部に蓄積された魔力を解放してしまった。これはナイが重い剣を早く手放したいと思ったがためであり、今度は魔力をさせた状態で扱えるか試す。


地属性の魔力を送り込むほどに岩砕剣は重量を増加させるが、ナイが持てる限界の量まで魔力を宿した後、魔力を送り込むのを辞める。その結果、魔力を刃に維持した状態で剣を振り回せる事が発覚した。



「……うん、これぐらいの重さだったら持てない事はないかな」

「そうか、それは良かった」

「やはり、使用者の意志に従って魔力を蓄積した状態を維持できるか……きつくはないか?」

「えっと……はい、普通に魔法剣を使う時よりは平気です」



刃に魔力を維持させた状態だとナイ自身の精神力も削られていくが、旋斧で魔法剣を常に発動する状態と比べれば負担は軽かった。ナイは重量を増加した剣を振り回していると、ここでアルトはこの状態でナイが剣を手放したらどうなるのかを確認するために彼に告げた。



「ナイ君、その状態で剣から手を離してくれるかい?」

「えっ……大丈夫かな」

「念のため、誰もいない場所に投げてくれ!!」



アルトの言う通りにナイは岩砕剣を振りかざし、誰も存在しない方向に向けて手放す。その結果、魔力が蓄積した刃は地面にめり込み、やがて魔力がなくなったのか元の状態へと戻った。

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