第347話 ハマーンの推察
――王城に到着すると、すぐにアルトは研究室の方へ向かい、事前に机の上に置いていた「岩砕剣」をハマーンに見せた。机の上に置かれた岩砕剣を見た途端、ハマーンは目を見開く。
「ハマーン技師、これを見てください」
「おお、これは……岩砕剣か!?儂も見るのは初めてだぞ!!」
「やはり、御存じでしたか」
岩砕剣を見てハマーンは驚いた声を上げ、実際に見るのは彼も初めてではあるが存在自体は知っていた。文献にも記載されている魔剣であり、彼は岩砕剣を覗き込んで興奮した様子でアルトに問う。
「アルト王子、これを何処で手に入れたのだ!?」
「実は王城の訓練用の武器として保管されていたんです。今まで誰も正体に気付けなかったのは外側の部分が岩石のように練り固められた土砂で覆われ、誰も気づく事が出来ませんでした」
「なんと……この城に保管されていたというのか」
「あ、重いから気を付けて下さい」
ハマーンは岩砕剣に手を伸ばすと、ナイは慌てて注意する。しかし、そんなナイの心配とは裏腹にハマーンは老人とは思えぬ腕力で軽々と岩砕剣を持ち上げた。
「ふんっ、黄金級冒険者を舐めるでない。これぐらいの重さの武器ならば簡単に持ち上げられるわい!!」
「うわっ……凄い」
「ハマーン技師のレベルは50を軽く超えているからね。いや、60だったかな?」
「正確に言えば58ですぞ……なるほど、確かにこれは使い手を選びそうな武器じゃ」
岩砕剣を持ち上げたハマーンはその場で素振りを行い、重量を確かめた後に今度は刃に視線を向けた。刃毀れは一切存在せず、並の剣士ではまともに扱えない重量だと知ると、彼は机の上に下ろす。
どこからともなくハマーンは鉄槌を取り出すと、試しに刃に向けて軽く叩き、最終的には強めに叩き込む。しかし、鉄槌で叩かれても岩砕剣は凹みもせず、硬度も耐久力も普通の魔剣と比べても高い事を見抜く。
「何という硬さ……確か文献によれば岩砕剣は地属性の魔力に反応して重量を増やすというが」
「それは本当です。ここにいるナイ君が試した所、地属性の魔力を送り込む程に重くなりました」
「なるほど、既に試していたか……しかし、それだけではないはずじゃ。この魔剣にはまだ秘密が隠されているはず」
アルトから岩砕剣が能力を発動した時の状態を確認すると、ハマーンは岩砕剣を再び持ち上げ、実際の能力を発動する状態を確認するためにナイに顔を振り向く。
「坊主、悪いがこの魔剣の能力を使用してくれるか?」
「え?でも……」
「ナイ君、先生の言う通りにしてくれ……そうだな、ここで使うと危険だから外に行こうか」
「うむ」
ハマーンからナイは岩砕剣を受け取ると、研究室で能力を使用すると危険のため、裏庭の方に移動を行う。ナイは二人の前で岩砕剣を構え、魔法腕輪に装着した地属性の魔石に意識を集中させる。
「じゃあ、行くよ?」
「ああ、怪我をしない様に気を付けてくれ」
「うむ……岩砕剣の力、とくと見せてくれ」
二人の許可を得るとナイは岩砕剣を上段に構え、地属性の魔力を送り込む前に剛力を発動させる。素の状態でも岩砕剣を持ち上げる事は出来るが、地属性の魔力を送り込む場合は重量が増加してナイの腕が折れる可能性もあった。
剛力で身体強化を行うと、ナイは覚悟を決めて地属性の魔力を岩砕剣に送り込む。自分の限界まで刃の重量を増加させると、ナイは一気に地面に振り下ろす。
「はぁあああっ!!」
「ぬおっ!?」
「うわっ!?」
勢いよくナイが地面に岩砕剣を振り下ろすと、刃が振り下ろされた箇所にクレーターが出来上がった。その光景を見てハマーンは目を見開き、一方でナイの方も奇妙な感覚を抱く。
「今のは……?」
「な、何事ですか!?」
「敵襲……いや、違った」
騒ぎを聞きつけたのか何処からともなくヒイロとミイナが駆けつけ、二人とも現在は他の騎士団と共に合同訓練中のはずだが、何故か木箱を運んでいた。そしてどちらも裏庭で剣を振り下ろすナイを見て驚く。
「ナ、ナイさん!?いったい何をしてるんですか!?」
「また王子の変な実験に付き合わされてた?」
「こらこら、変な実験とは何だい。これもれっきとした研究だよ」
「そういう二人こそどうしたの?その木箱は……」
ヒイロとミイナは駆け寄ると、ナイは二人が運んでいる木箱を確認して薬の類が入っている事に気付く。二人は訓練をしていると聞いていたが、どうやら荷物を運びを命じられていたらしい。
「あ、実は訓練中に怪我をした人間の治療のための薬をイシ医師から受け取って運ぶ際中だったんです」
「イシイシ?」
「イシ、医師です!!」
「私達、訓練の時にやり過ぎて罰として雑用を命じられた」
「おやおや、また何かやらかしちゃったのかい?」
二人とも他の騎士団の訓練中に問題を起こしたらしく、その罰も兼ねて雑用を任せられたという。だが、そんな二人を無視してハマーンは地面に出来上がったクレーターを確認して疑問を抱く。
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