第349話 岩砕剣と旋斧

「……なるほど、どうやら使用者が手放しても重力が外部に拡散される事はないか」

「ちょっと待ってください!!それだと、もしも失敗していたらナイさんが手放した瞬間にその重力とやらが解放されていたかもしれないんですか!?」

「そういう事は事前に言って……避難する暇もなかった」

「まあ、そう怒らないでくれよ。それよりもハマーン技師、どう思いますか?」

「うむ、岩砕剣の能力はだいたいは把握できたな。要するにこの魔剣は重力の性質を司る魔剣である事に変わりはない」



一通りの実験を終えて満足したのか、ハマーンとアルトは満足そうに頷く。その様子を見て他の3人は若干呆れた様子を浮かべるが、ここでナイは地面にめり込んだ岩砕剣を引き抜く。


岩砕剣の能力を把握すると、今度はナイの背負っている旋斧にハマーンは興味を示し、彼は事前にアルトから旋斧の能力を説明されていたが実際に見てみたいと思った彼はナイに頼み込む。



「なら次は旋斧の能力を儂に見せてくれんか?噂によると、その武器でミノタウロスを屠ったと聞いて居るが……」

「旋斧、ですか?」

「ナイ君、自分の得意な魔法剣を見せてくれるだけでいいよ」



ハマーンの要求にナイは困ると、アルトが助言を行う。その言葉を聞いてナイは色々と考えた末、旋斧を引き抜くと魔法腕輪に装着した魔石に視線を向ける。



(得意な属性の魔法剣か……といっても、どれを使っても変わらないと思うけどな)



魔法剣自体がナイもまだ使い慣れておらず、とりあえずはナイは先ほども使用していた地属性の魔法剣を発動させる。


旋斧の刃に地属性の魔力が流し込まれると、刃全体が紅色に変色し、周囲に重力を放つ。その様子を見てハマーンは感心したように声を上げた。



「おおっ!!これが地属性の魔法剣か!!どれ、試しに力をみせてくれんか?」

「はあっ……」



ハマーンの言う通りにナイは旋斧を地面に近付けると、刃の周囲から放たれる重力によって刃が触れる前に地面の土砂がめり込み、まるで刃の周りに見えない壁があるかのように触れずに地面がめり込む。その様子を見て最初に岩砕剣でクレーターが出来上がったときの光景に似ている事にハマーンは驚く。



「おおっ……なるほど、確かに刃に送り込んだ魔力を纏っている。というよりも魔力を外部に流し込んでいるようじゃな」

「そうなんです。普通の魔法剣が魔力を刃に付与させるのに対してナイ君の旋斧は常に魔力を外部に解放しているんです。そのせいで普通の魔法剣よりも燃費は悪いですが、魔石や魔法腕輪などを媒介にすれば魔操術を利用してあらゆる魔法剣を使いこなす事が出来るんです」

「これは確かに面白いのう。しかし……魔力を蓄積させる魔剣と、解放させる魔剣か……」



この時にハマーンは岩砕剣と旋斧を交互に見つめ、この二つの魔剣の能力が真逆である事に気付く。長年の鍛冶師の勘がこの二つの武器が偶然にも巡り合ったようには思えず、アルトに助言を行う。



「アルト王子、その岩砕剣とやらはこの坊主にしばらく預けた方がいいかもしれんぞ」

「え?」

「儂の勘だが……その二つの魔剣はこの坊主が持っていた方が良い気がする。きっと、坊主ならばこの二つの魔剣を扱いこなせるじゃろう」

「ふむ……まあ、岩砕剣の使い手はまだ決まっていないから父上に頼めば何とかなるかもしれません。分かりました、岩砕剣はナイ君に預けましょう」

「ええっ!?」



急に岩砕剣の管理を任されたナイは戸惑うが、そんな彼に対していハマーンは近づき、彼は魔法剣が解除された旋斧と岩砕剣に触れ、瞼を閉じる。


ハマーンの行動にナイは戸惑うが、しばらくするとハマーンは目を開き、笑顔を浮かべて二つの魔剣を所有するナイに告げた。



「ふむ、どうやらどちらの魔剣もお主の事を主人と認めておる様じゃ……長年、様々な魔剣を見てきた儂だから分かる。この二つの魔剣はお主の事を気に入っておるようじゃな」

「えっ……?」

「よいか、何があろうとこの魔剣を手放してはならんぞ。必ずお主の役に立つじゃろう。儂が言えるのはここまでじゃ、後はお主次第である事をゆめゆめも忘れるな」



ナイの肩を掴み、ハマーンは真剣な表情で言葉を伝えると、ナイは反射的に頷いてしまう。そして彼は用事を思い出したようにアルトに告げた。



「ではアルト王子、儂はここらで帰らせてもらおう」

「ハマーン技師?」

「これだけ良い魔剣を見せて貰えると儂も満足じゃ。むしろ、この魔剣達に負けない武器を作りたいと思った。久しぶりに儂も武器づくりに励むとするかのう」

「……分かりました。なら、僕の作った魔道具は今度見てくださいね」

「うむ、約束しよう」



旋斧と岩砕剣を見てハマーンは自分も負けずにこの二つに武器に勝る魔剣を作り上げたいと奮起し、帰還する事を告げた。アルトはそんな彼を引き留めず、城外まで見送る――

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