閑話 〈三人目の魔導士〉

――国内に三人しか存在しない魔導士、その内のマホはグマグ火山の調査に向かい、マジクは魔術兵の指導を行っている。ならば三人目の魔導士が何をしているのか、それはに会わなければ分からない。


マホが最古参の魔導士ならば三人目の魔導士は最近に魔導士に昇格したばかりの人物であり、歴代の魔導士の中でも最年少で魔導士の地位に就いた事になる。魔導士の中では実力が一番高いと言われるマジクよりも若く彼女は魔導士に昇格したが、本人は自分が魔導士であるという自覚はなかった。


どうして彼女が魔導士になれたかというと、それは彼女自身の功績があまりにも大きかったからだった。三人目の魔導士は薬学にも精通し、彼女は若くして通常の回復薬よりも効果が高い「上級回復薬ハイポーション」を作り上げる。他にも彼女の手によって様々な薬が作り出され、その功績を認められて彼女は魔導士の位を与えられる。


本人は望んではいない位だったが、魔導士の立場ならば色々と優遇される事を利用し、彼女は魔導士の座に就く。他の二人と比べて目立った功績は上級回復薬の開発しかしていないが、彼女の目的は伝説の秘薬である「精霊薬エリクサー」の生成であった。




――精霊薬は伝説上の薬だと呼ばれ、実際にそのような薬があるのかどうかも定かではない。その精霊薬を使用すればどんな病気も怪我も治り、死んだ人間でも蘇るとまで言われている。そんな実在したかどうか分からない薬の製作に三人目の魔導士の「イリア」は挑んでいた。




どうして彼女が精霊薬に固執するのかは分からない。しかし、彼女が元々作り出した上級回復薬も精霊薬を製作する過程で生み出された偶然の産物であり、本人からすれば失敗作同然だった。それでも上級回復薬によって彼女は今の地位に就き、魔導士の権限を利用して彼女は研究に没頭する。


実はアルトが使用している研究室は彼女も時々赴き、実験に必要な道具の開発を行う。イリアとアルトは昔からの付き合いであり、アルトの魔道具に関する知識は彼女から教わっていた。


魔導士であるイリアと第三王子であるアルトのために研究室は作り出され、この研究室を使用する事が許されているのはこの二人だけである。正確にいえばこの二人以外に研究室を利用する人間などいないが、最近になってイリアはとある噂を耳にする。それはアルトが外部の人間を研究室の中に入れていると知ったイリアは真偽を確かめるため、アルトの元に訪れた。



「こらぁっ!!アルト王子!!勝手に私達の研究室に部外者を入れたというのは本当ですか!?」

「やあ、久しぶりじゃないか。イリア、少し大きくなったんじゃないか?」

「喧嘩売ってんですかこんちくしょうがっ!!」



アルトの部屋に乗り込んだのは11〜12才程度の姿をした少女であり、外見はマホのように若々しいが、実年齢はアルトよりも上である。仮にも王子であるアルトに対して少女は怒鳴り散らす。



「私達の研究室に勝手に部外者を入れるなんて何を考えてるんですか!!ぶっ殺しますよ!!」

「まあまあ、それぐらい許してくれ。それよりも実は面白い魔道具を持っている子と出会ってね。今度、君にも会って欲しいんだけど……」

「お断りします。私が興味があるのは薬の製作に役立つ魔道具だけです。貴方と違って私は薬にしか興味ないんですよ」

「相変わらずだね君は……」

「いいですか、今度勝手に研究室に部外者を入れたら許しませんよ!!」



言いたいことだけを言うと少女はアルトの部屋を立ち去り、そんな彼女を見送りながらアルトはため息を吐き出す。



「気が合うと思うんだけどな……まあ、焦る必要はないか」



立ち去っていくイリアを見送りながらアルトは何時の日か彼女をナイ達と会わせる事を心の中で誓う。

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