第321話 岩石剣の中身
思いがけぬリン副団長との試合から翌日、ナイ達は王城の訓練場に再び集結し、今回はテンも同行していた。彼女は退魔刀を持参し、ナイも旋斧を装備した状態でお互いに向かい合う。
二人の間には地面に柄を埋め込んだ状態で刃の部分のみが露出した「岩石剣」が存在し、それを挟んでナイとテンは向かい合う。その様子を他の者達は心配した表情で見つめる中、アルトは合図を出す。
「よし、やってくれ二人とも!!」
「はいよ……ナイ、手加減するんじゃないよ。あたしにちゃんと合わせなっ!!」
「はいっ!!」
ナイとテンは各々の武器を構えると、魔操術を発動させて限界まで身体能力を強化させた。二人の身体から聖属性の魔力が迸り、そして同時に目を見開くと岩石剣に向けて駆け出す。
「うおおおおおおっ!!」
「はぁあああああっ!!」
お互いに気合の雄叫びを上げながら踏み込むと、二人の振り翳した刃が同時に岩石剣に衝突し、前後から強烈な衝撃を受けた岩石剣は激しく振動し、亀裂が生じて全体に広がっていく。
遂には岩石剣の名前の由来でもある岩石全体が砕け散ると、岩石の内部から紅色の金属で構成された刃が出現した。それと同時にナイとテンは後退ると、疲れた表情を浮かべて倒れ込む。
「はあっ、はあっ……さ、流石にきついね」
「つ、疲れた……」
「二人とも大丈夫!?すぐに治してあげるからね!!」
座り込んだ二人の元にモモは駆けつけ、彼女は二人の腕を掴むと魔力を送り込む。モモから聖属性の魔力を分け与えて貰って二人が回復する中、アルトは興奮した様子で地面に突き刺さった紅色の大剣に視線を向けた。
「これは……間違いない、文献に記されていた「岩砕剣」と呼ばれる魔剣だ!!もう何十年も前に消失したと思われていたのにまさかこの中にあったなんて……」
「岩砕剣?」
「驚いたね……まさかあの岩みたいな剣のなかに別の剣が入っていたなんて知りもしなかったよ」
長年、訓練の際は岩石剣を使用し続けていたテンでさえも岩石剣の内部に別の剣が隠されいた事を知らなかったらしく、アルトによると「岩砕剣」と呼ばれる魔剣の類らしい。
この時にアルトは岩砕剣に張り付いていた岩石を拾い上げて確認すると、砕けた瞬間に岩石は非常に脆くなり、少し触っただけで簡単に崩れてしまう。まるで岩石というよりも土砂を練り固めたような代物と化していた。
「これはどうやら岩の塊じゃないようだ……まるで高密度に圧縮された土砂の塊に覆い込まれていたようだね」
「土砂?これ、岩じゃなくて土で出来ているの?」
「ああ、きっとこれも岩砕剣の能力なんだろう。土砂を操作して岩石のように練り固めて刃全体を覆い隠していたんだ」
「え?という事は魔剣の所有者がいない状態なのに能力が解除されずにずっと発動していたんですか!?」
魔剣「烈火」の所有者であるヒイロはアルトの言葉を聞いて驚き、通常の魔剣は能力を解放する時は所有者の魔力を必要とする。だが、岩砕剣の場合は所有者が不在の状態で常に能力を維持して岩石のように練り固めた土砂を纏っていたのかと驚くが、アルトは魔剣の性質の違いだと判断する。
「いや、ヒイロの魔剣の場合は魔力を送り込めば火炎を纏う。だが、この岩砕剣の場合は一度能力を発揮して練り固めた土砂は、能力を解除しても圧縮された土砂は固定化されて離れる事はないんだろう」
「良く分からないけど……その、圧縮された土砂は能力を解除しても離れないという事?」
「そういう事だね。文献によると岩砕剣は地属性の魔力の適正が高い人間が扱っていたらしい。そして巨大な岩を破壊するほどの強烈な一撃を繰り出せる事から岩砕剣と名付けられたらしい」
「意外と単純な名前なのね……」
「岩を破壊するぐらいなら私とナイでも出来る」
岩砕剣の名前の由来を聞いてヒナは呆れ、ミイナも言い返す。実際にこの世界では岩石程度ならば破壊する力を持つ剣士は多く、この場に存在するナイもミイナもテンも本気を出せば岩石を破壊する事は容易い。
但し、岩砕剣の真の能力は3人のような剛剣を得意とする剣士でなくとも岩石を破壊するほどの力を引き出せるらしく、アルトは岩砕剣を見つめながら他の者に顔を向けた。
「よし、誰かこの岩石剣を使ってみてくれないかい?もしも使いこなす事が出来たらその人に岩砕剣をあげるよ」
「えっ!?いいんですか、勝手にそんな事……」
「勝手も何もこれはあくまでも訓練用の武器として扱われていたからね。適当に誤魔化しておけば大丈夫さ」
「それは王子としてはまずい発言じゃ……」
「そんな事よりも誰かこの魔剣を試してくれないか?地属性の適正を持つ者は誰かいないのかい?」
「あ、それなら……地属性の適正はないけど、魔法腕輪を利用すれば魔力を操作できるから多分扱えると思う」
アルトの言葉を聞いてナイは自分の腕に嵌められた魔法腕輪を確認し、地属性の魔石から魔力を引き出せば岩砕剣も操れるだろうと判断して名乗り上げる。
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