第331話 貧弱だろうと……
「そうか……よくぞ教えてくれた。しかし、気になる事がある。これほどの技能をどうやって覚えたのだ?」
「通常、技能の数は覚えられるとしても6~7個が限界のはず……いったいどのような手段でこれほどの数の技能を覚えたのか教えてくれるか?」
「あ、はい。それは貧弱の技能のお陰です」
国王と宰相の問いかけにナイは正直に答えると、全員が驚いた表情を浮かべる。だが、察しの良いアルトはすぐに貧弱の技能の内容を確認して答えを導き出す。
「貧弱……そうか、そういう事だったのか!!貧弱の技能は毎日レベルを元に戻す事、という事はレベルが戻る度に君は魔物を倒してレベルを上げていたのか!!」
「何だと?そんな事が可能なのか!?」
「はい、魔物を倒してレベルを上げてSPを稼いで技能を身に着けていました」
「なるほど……そんな手があったのか」
魔物を倒してレベルを上げればSPを獲得し、それを利用すれば新しい技能を習得する事が出来る。しかし、レベルというのは本来は下がる物ではなく、レベルが上がれば上がる程に次のレベルに必要な経験値量は増加する。
だが、ナイの場合は貧弱の技能によってレベルが強制的に戻されるため、そのお陰で弱い魔物を倒すだけでもナイは簡単にレベルが上がってSPを獲得した。最もそれはあくまでも初期の話であり、現在では簡単にレベルが上がらなくなっている。理由としては彼が多数の技能を覚えたからだと考えられた。
「しかし、これほどの技能を覚えるとなると君自身にも相当な負担が掛かっているだろう」
「そうだね、確かに技能は役立つ能力だけど、新しい技能を身に付ける度にレベルを上げるのに必要な経験値量が増えていく」
「あ、やっぱりそうなんですね……」
アッシュとテンの言葉を聞いてナイは納得してしまい、彼女達の言う通りに大量の技能を覚え始めてからレベルの上昇率が低くなってしまった。以前はゴブリンを1匹倒すだけでもレベルを上げる事が出来たが、現時点ではもうゴブリンどころかボアなどの魔物を倒してもレベルは上がらない。
ここまでの旅と先日のガーゴイル亜種やミノタウロスといった強敵との戦闘でナイもレベルが上がってSPを入手していたが、いくらSPが余っていても現時点でナイが覚えられる技能の数も限られており、それにこれ以上に技能を覚えればよりレベルを上げるのに必要な経験値量が増えてしまう。
「ナイ君の強さの秘密はこの技能の数だったのか……」
「しかし、いくら大量の技能を身に着けていたとしてもレベル1の人間がガーゴイルやミノタウロスを倒せる程に強くなれるのか?」
「兄上、技能を覚えたらどうしてレベルを上昇させるのに必要な経験値が減ると思いますか?それは身に付けた技能が経験値で強化されているからです」
「技能が……成長?」
アルトの言葉に全員が視線を向け、彼はレベルと技能の関係性を説明してくれた。
「文献によると技能を覚えれば魔物を倒した時に得られる経験値が減るのではなく、レベルを上げるのに必要な経験値の一部が技能に送り込まれるという説があるんです。だから魔物を倒せば倒す程に技能も経験値を得て強化しています。この場合は強化というよりも成長という表現が正しいのかもしれませんが……」
「技能が強化されるだと?ならばナイの強さは……」
「ナイ君は身体強化系の技能を幾つも習得している。そしてこれまでに大量の魔物を倒して得た経験値は彼の技能を強化しているんです。防御力や耐久力を上昇させる「頑丈」や「受身」素早さや跳躍力を上昇させる「脚力強化」「跳躍」そして彼の一番の筋力を強化させる「腕力強化」「怪力」「剛力」これらの技能が強化される事でナイ君はレベル1でありながら魔物にも対抗できる力を手に入れたんでしょう」
ナイはアルトの説明を聞いて自分の肉体に視線を向け、今まで身に着けていた技能も知らず知らずに強化されている事を知る。だが、実を言えばナイ本人もなんとなく理解しており、明らかに子供の時と比べても技能の性能が上昇していた。
技能の成長を実感できたのは剛力の技能が最も良い例であり、最初の頃は重い物を持ち上げる程度の力しか引き出せなかった。だが、現在のナイならば剛力を発揮させれば素手の状態でも恐らくは赤毛熊を殴り飛ばせる力は引き出せる。
経験値によって強化された技能は貧弱の効果を受け付けず、ナイがこれまで窮地を脱する事が出来たのは彼が身に着けてた技能が支えてきた事を意味している。アルトの話を聞いてナイは「貧弱」の技能を身に着けて生まれてきた事にナイは感慨深く思う。
(この貧弱がなければここまで強くなれなかったんだ)
もしもナイが普通の子供として生まれていたら今のような人生を送る事はなかっただろう。恐らく、実の両親からも捨てられず、平和に生きてきたかもしれない。魔物と戦う事もなく、ここまでの強さを得られる事はない平凡な生活を送れただろう。
だが、ナイは貧弱の技能を持って生まれた事を辛く思わず、この技能のお陰で自分は強くなれたと思う。この技能に苦しめられる事もあったが、今ではナイはこの貧弱こそが自分の長所だと思うようにした。
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