第332話 呼び出した理由
「なるほどのう、貧弱の技能か……アルトの話が本当だとすればこれは忌むべき技能ではない、むしろ誇りに思うべき技能じゃ」
「ええ、僕もそう思います。ナイ君、恥じる事はない。君の技能は人に自慢できる能力だ」
「……ありがとう」
アルトの言葉にナイは笑みを浮かべ、ここで水晶のペンダントが光を失って元に戻る。その様子を見ていた国王は朗らかな笑みを浮かべるが、すぐに気を取り直してナイを呼び出した理由を告げた。
「そういえばアルトよ、お主はこのナイの持っている武器ならば大型ゴーレムに対抗できると言っていたが、それは本当か?」
「え?大型ゴーレム?」
「ナイ君、実は……」
ナイは呼び出された理由をアルトかた説明され、現在この王都の北部に存在するグマグ火山にて得体の知れない大型ゴーレムが現れた事、そして大型ゴーレムに対抗できるのは魔法腕輪を利用して水属性の魔法剣が扱えるナイの力が必要である事を伝える。
魔法腕輪と旋斧を利用すればナイは水属性の魔法剣を発動させ、火属性の魔力を取り込んで成長した大型ゴーレムに対抗できる可能性が高い。しかし、話を聞かされたナイは焦りの表情を浮かべ、話に聞く限りは大型ゴーレムはこれまでにナイが戦った相手とは比べ物にならない脅威だと知った。
「ゴーレムっ……前に戦ったガーゴイルみたいな存在?」
「性質は近いね、ゴーレムもガーゴイルも岩石の如き肉体を持っている。だが、ガーゴイルの場合はあくまでも岩石のような肉体であって本物の岩石じゃない。しかし、ゴーレムの場合は違う」
「違う?」
「ゴーレムの肉体を構成しているのは正確に言えば練り固められた土砂だ。岩砕剣に張り付いていた岩を覚えているかい?あれも魔力で練り固められた土砂だっただろう?あれと同じようにゴーレムは土砂を取り込む事で肉体を構成するんだ。そしていくら肉体を破壊しようと、経験石を壊さなければゴーレムは倒した事にはならない。仮に肉体を破壊しても新しい土砂を取り込んですぐに再生するだろうね」
「再生って……」
ゴーレムとガーゴイルの違いは前者の場合は肉体を土砂や岩石の場合で構成しているのに対し、後者の場合は岩石のようにみえるが本物の生身の肉体である事である。ガーゴイルはあくまでも石像に酷似した魔物であり、身体を粉々にされれば流石に死ぬ。
しかし、ゴーレムの場合は体内の経験石が本体と言っても過言ではなく、彼等の経験石は土砂や岩石を取り込んで自分の肉体の代わりに操る。そのため、粉々に破壊されようと経験石が無事ならば何度でも復活する。腕が切られようと足が砕かれようと再生に必要な土砂を吸収すれば元に戻ってしまう。
「ゴーレムを倒す一番の方法は水属性の魔法攻撃なんだ。通常ならゴーレムの肉体は水分を吸収すると泥の様に変化して防御力が低下するんだが、今回の場合は火属性の魔力を取り込んでいる。だから火属性に対抗するには相反する水属性の魔法攻撃でないと駄目なんだ」
「そ、そうなんだ……」
「アルト、無茶を言うな。いくらナイが強いとはいえ、たった一人で大型ゴーレムを倒せるわけはないだろう」
「兄上、僕だってナイ君一人に苦労させるつもりはありません。しかし、この王都内を探しても彼以外に大型ゴーレムに有効的な攻撃を与えられる人はいないと思っています。これは嘘じゃありません」
「アルトよ、そこまでお主はこの者を信頼しておるのか?」
話を聞いていた国王は口を挟むと、その言葉に対してアルトは頷き、彼はナイの肩に手を掛けながら頷く。
「ナイ君の実力は本物です。それに彼の旋斧も普通の魔剣ではありません……ですから父上、彼のために水属性の魔石を出来る限り用意して下さい」
「……ふむ、そこまで言うのであれば分かった。ナイよ、お主には悪いがこれは王命である。この国の民としてお主にはこの国を守る義務がある……どうか大型ゴーレムの討伐に協力してくれ」
「は、はい!!」
相手が国王ともなると流石のナイも拒否する事は出来ず、大型ゴーレムの討伐にナイは参加する事を約束した。その様子を他の者達は色々と思う所はあったが、国王が命令した以上はもう誰も止める事は出来ない。
こうしてナイは大型ゴーレムの討伐に参加させられ、彼のために魔石を用意する事を国王は約束する。しかし、その国王の言葉を聞いてアルトは内心で笑みを浮かべる。
(よし、上手くいった!!ナイ君、利用するようですまない……だが、どうしても君の力が必要なんだ)
アルトはナイを呼び出した本当の理由、それは国王が彼のために魔石を用意させる事を約束させるためであり、これでナイを通せば魔道具の原材料となる魔石を大量に手に入る。
魔道具の開発に最も重要なのは動力源である魔石であり、この魔石を手に入れれば後はアルトの思い通りだった。ナイならば大型ゴーレムの討伐に役立てるという言葉は嘘ではないが、アルトは彼だけに任せるつもりはなく、自分の技術を注いで大型ゴーレムに対抗できる魔道具を開発するつもりだった――
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