第323話 魔剣の危険性
「ナイ君、さっき君はこれを壊す時にどの程度の力を込めたんだい?」
「力は……そんなに込めてないよ。多分、普通に剣を振る時よりも手加減はしていたと思う」
ナイは鎧人形に切りかかった時、初めて岩砕剣の能力を攻撃の際に使用するため、敢えて力を抜いて出来る限りは速度を落として攻撃を仕掛けた。攻撃の際に地属性の魔力を送り込む事に集中していたため、今回はそれほど力を込めずに剣を振ったつもりだった。
だが、結果から言えばナイは決して本気を出して振り抜いたではないにも関わらず、岩砕剣は地属性の魔力を帯びた瞬間に凄まじい威力を発揮し、あろう事か鎧人形を真っ二つに切ってしまった。
軽く振っただけで鋼鉄製の鎧人形を破壊する程の威力を引き出す事が出来た、それはつまり普通の人間でも地属性の魔力を扱えれば誰でも鋼鉄程度の鎧を纏った相手ならば切り裂ける事を意味している。
「この岩砕剣は能力が危険過ぎる……もしも地属性の魔力の適正を持つ人間が扱えばそれこそ凶器と化す。これを悪人が手にすれば……最悪の事態に陥るね」
「で、ですけど地属性の適正を持つ方なんて滅多にいませんし……」
「いや、忘れたのかい?魔操術を扱える奴ならナイの様に魔石から魔力を引き出して適性がない属性の魔力も操れるんだ。つまり、ある程度は魔操術を極めた人間ならこの岩砕剣は誰でも扱えるんだよ。まあ、あたしの場合はそんな器用な真似はできないけどね……」
「え、そうだったんですか?」
意外な事にナイよりも魔操術を身に付けた歴が長いテンは、彼の様に魔法腕輪を通して適性がない属性の魔石の魔力を引き出すなどは出来ないらしい。彼女が扱えるのはあくまでも聖属性の魔力だけらしく、これまでに魔石を利用して他の属性の魔力を引き出した事はないという。
「まあ、あたしの場合はともかく、魔操術を扱える奴等は何人もいるんだ。その中にはナイのように器用に地属性の魔石から魔力を引き出す奴もいるだろうね。そんな奴等に岩砕剣の事が知られたら……」
「非常に厄介な事になるね。きっと、岩砕剣を欲しがるだろう……鋼鉄製の鎧人形をここまでするほどの力だ」
改めてナイ達は破壊された鎧人形に視線を向け、岩砕剣の恐ろしさを思い知る。剣の重量を増加させるという単純な能力だが、単純な故に扱いやすい。
仮にナイが旋斧で鎧人形を真っ二つにする場合は剛力を発動させなければならない。つまり、先ほどの岩砕剣の攻撃はナイが剛力を発動させた状態の攻撃と同等の威力がある事を意味する。もしも地属性の魔力をより注ぎ込めば攻撃の威力は更に跳ね上がる事は確実だった。
「この岩砕剣……持ち歩くのは危険だと思う」
「ああ、残念だがこれは大切に保管しておいた方が良いね」
「勿体ないけど、仕方がないね……こいつは人の手には余る代物だよ」
「クゥ〜ンッ……」
元々はナイが扱う訓練用の武器として求めた岩石剣だったが、まさか中身が魔剣だとは夢にも思わず、しかもその能力があまりにも危険過ぎた。
この岩砕剣の事は他の人間に知られる前に封じるのが一番だと判断され、残念ながらアルトが保管しようとした時、ここでナイは肝心な事を思い出す。
「あっ……でも、これが使えないとなるとリーナさんとの試合の時に何を使えばいんだろう?」
「えっ……そうだ、すっかり忘れていた!!そもそも岩石剣はナイ君が試合用のために使う武器として用意させたんじゃないか!!すまない、すぐに新しい武器を用意しないと……」
「リーナ?アッシュの娘の事かい?あんた、リーナと試合するつもりだったのかい?」
「実は……」
テンはナイがリーナと試合をする事を初めて知り、この際にナイはリーナとの試合を行う経緯を話す。リーナとの試合は本物の武器は使用せず、訓練用の武器で行う事を告げると、テンは納得したように頷く。
「なるほどね、そういう理由で武器を探していたのかい。けど、この剣以外であんたが扱えそうな武器なんて他に心当たりはないね……」
「そうですか……」
「今から土砂を張り付けて岩砕剣を元の状態に戻す?」
「いや……さっきのを見た限り、どうやら岩砕剣の能力は重量を変化させる事のようだ。つまり、土砂を練り固める能力はない。この剣を封印した人間は恐らくは地属性の魔法の使い手だったんだろう。きっと魔法の力で岩砕剣の刃に土砂を練り固めて偽装していたんだ」
「どうしてそんな事を……」
「きっと、他の人がこの剣を悪用しない様にしていたんでしょうね。まさかこんな岩石を取り付けたような武器を誰も魔剣だとは思いもしませんし……」
岩砕剣が最初は岩石のように圧縮した土砂に練り固められていたのは岩砕剣を封じた人間がいる事を意味しており、前に岩砕剣を所有していた人間はこの魔剣の危険性を知った上で封印を施したのだろう。
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