第322話 岩砕剣

「よし、ならナイ君に任せよう」



岩砕剣を受け取ったナイはここで刃を覆い込んでいた岩石が外れた事が剣が軽くなった事に気付き、これならば剛力を発動せずとも問題なく扱える事を確認する。


岩石のように練り固められた土砂が張り付いていたので気づかなかったが、岩砕剣は元々は大剣というよりも長剣に近く、普通の鋼鉄製の長剣と比べると重いが、普段から旋斧を扱っているナイからすればそれほど重くはない。



「どうだい?何か感じるのかい?」

「今の所は特に……魔力を送り込めば能力が発動するのかな?」

「多分、そうだろうね。でも、気を付けてくれ」

「うん……じゃあ、皆は離れていて」



ナイは岩砕剣を構えると魔法腕輪を通して地属性の魔石から魔力を引き出し、それを岩砕剣に送り込む。先日の旋斧の能力実験のために魔石から魔力を引き出すコツは掴んだため、岩砕剣にも同じ要領で魔力を送り込む。


地属性の魔力を送り込んだ瞬間、岩砕剣の刃が光り輝き、この時にナイは違和感を抱く。それは魔力を送り込めば込むほどに岩砕剣の重量が変化している事に気付き、遂には持ち上げきれずに地面に落としてしまう。



「うわっ!?」

「ナイ君!?」



魔力を帯びた岩砕剣はナイの手元から離れた瞬間、地面に向けて刃がめり込み、この際に刃の根本近くまで地中に埋まってしまう。その光景を見て他の者達は呆気に取られ、信じられない表情を浮かべながらナイは岩砕剣を掴む。



「な、何だこれ……急に重くなった、というよりも魔力を取り込んだ途端に重くなったような気がする」

「嘘だろう……いくら柔らかい地面だからって、普通は落としただけでこんなに簡単に沈む事はあり得ないよ」

「これ、引き抜く事は出来るの?」

「えっと……あ、大丈夫そうだよ。能力を解除したせいか重さは元に戻ってるみたい」



心配そうにナイは岩砕剣を引き抜こうとすると、魔力が切れたのか重量は軽くなっており、簡単に引き抜く事が出来た。地面に埋もれた時にまた岩砕剣の刃に土砂が張り付いたのではないかと心配したが、何事もなく抜けた。



「ふむ……どうやら岩砕剣の能力は地属性の魔力を送り込むと重量が変化するらしい。という事は……ナイ君、次の実験だ!!」

「え?実験って……何をすればいいの?」

「そうだな、とりあえずは試し切りをしてみたい。何か手ごろな物は……よし、あれを使おう!!」



訓練場を見まわしたアルトは先日も利用した鎧を纏った人形を指差し、それを試し切りするようにナイに促す。鎧人形ならば何度か打ちこんだ事があるのでナイは緊張せずに岩砕剣を構えると、ここでアルトが注意する。



「ナイ君、攻撃の際に相手に向けて振り下ろす瞬間に魔力を流し込むんだ。出来るかい?」

「攻撃の時に重量を変化させればいいんだね?」

「そうだ。そうすればきっと攻撃威力が増すはずだ……頑張ってくれ」

「分かった、やってみるよ」

「ナイ君、頑張れ!!」

「ウォンッ!!」



モモとビャクの声援を受けながらナイは岩砕剣を鎧人形に構えると、この時にナイは意識を集中させ、そして鎧人形に踏み込む。


攻撃を行う際にナイはまずは鎧人形の頭部に向けて刃を振り下ろし、この際に魔法腕輪を通じて地属性の魔力を岩石剣に流し込む。



「はああっ!!」

「きゃあっ!?」

「こ、こいつは……なんて威力だい!?」

「凄まじい……これが岩砕剣なのか!?」



ナイが刃を振り下ろす寸前、地属性の魔力を帯びた岩砕剣は瞬時に重量を増加させると、鋼鉄製の鎧を纏った人形は圧倒的な重量の刃を受けて真っ二つに切り裂かれる。ナイとしては力を込めずに軽く振ったつもりだが、その威力に驚愕する。


鎧人形を切り裂く光景を見ていた他の者達も驚き、岩砕剣は地属性の魔力を送り込む事で重量が増加する事が改めて確認された。ほんの一瞬だが、岩砕剣は重量を元の数倍、下手をしたら十数倍の重さに変化する事が出来るらしく、更に魔力を込めれば重量を増やせそうであった。



(なんて威力だ……確かにこの重さなら岩石でも簡単に壊せそうだ)



岩砕剣を利用したナイは手元の実感を確認し、確かにこの重さならば普通の人間でも地属性の魔力を送り込む事が出来れば岩石であろうと破壊する事が出来る。しかも鋼鉄製の鎧人形を切り裂いても岩砕剣は刃毀れ一つなく、頑丈さも旋斧と同等かそれ以上だと思われる。



「これが岩砕剣の能力……」

「こいつはたまげたね……確かにこの剣なら地属性の適正がある人間なら巨岩でもぶっ壊せそうだね」

「だけど、使い道を誤るととんでもない事になりそうだ。この能力は無暗に他の人間に見せたら駄目だよ」

「え?どうして?こんなに凄い武器なのに……」



アルトの言葉にミイナは不思議そうな表情を浮かべるが、彼女以外の者達は岩砕剣の危険性を理解しており、もしもこれほどの魔剣が他の人間に知れ渡ったら厄介な事になる。

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