閑話 〈ノイのその後〉

――王都に赴いた際にバーリの雇った傭兵によって捕まり、彼女の身の回りの世話を任されていたノイは事件の後は警備兵に保護された。すぐに彼女の両親に連絡が伝わり、迎えに来てくれた。


両親ともにノイが生きていた事を非常に喜び、彼女自身も二度と会えないと思っていた家族との再会を喜んだ。だが、ノイの場合は残念ながらそのまま家族の元へ帰る事は出来なかった。


彼女は使用人としてバーリの身の回りの世話を任されており、彼の配下の中でも内情に詳しかった。そのため、彼女が持っている情報は全部記録するため、事情聴取を受ける。



「なるほど……この隠し倉庫の存在は偶然に知ったというわけか」

「は、はい……この場所を私が知ったのはただの偶然です」



事件が起きてから翌日、バーリの屋敷は王国の兵士が調査を行い、この時にノイも協力を行う。彼女はこの屋敷で働いている使用人のため、内部の人間しか知らない隠し部屋なども把握していた。


ナイ達が傭兵のダンやゴウと交戦した隠し倉庫に関してもノイは報告を行い、この場で何が起きたのかを話す。この時に調査を行ったのは銀狼騎士団のリンであり、詳しくノイの話を聞く。



「この倉庫の事を知っている人物の中でバーリ以外に心当たりはあるか?」

「いえ……残念ながらそこまでは分かりません。ですが、この部屋へ訪れた傭兵達はこの部屋の事を知っている様子でした」

「なるほど……」



倉庫に倒れていたはずの傭兵二人の内、ゴウは既に捕縛しているがダンの方は捕まっていない。彼はどさくさに紛れて屋敷から逃げ出したらしく、未だに捕まっていない。


リンは知りえない事だが、この数日後にダンは彼がかつて所属していた組織に抹殺された。そのため、彼から情報を得る事は出来ないがもう一人の男から情報を聞き出す必要があった。



「倉庫の中身はどうなっている?」

「はい、どうやら殆どの代物が金目の物や魔道具の類です!!」

「副団長、例の少年から回収した大剣に関してなのですが……やはり、あの御方の物でした」

「……そうか、道理で見覚えがあると思ったはずだ」



倉庫の点検を行っていた兵士からの報告にリンは腕を組み、その彼女の態度にノイは不思議に思う。ナイが屋敷にて回収した「退魔刀」なる武器は普通の人間が扱うにしては異様な重量を誇り、仮に高レベルの冒険者でも手に余る代物だった。


部下からの報告を受けたリンは退魔刀が保管されていた木箱を覗き込み、何故か深いため息を吐き出す。その態度にノイは疑問を抱く。



「まさかあの剣がこんな所にあるとは……もう失われた物だと思っていたが、素直に喜ぶべきかどうか……」

「あのう……」

「ああ、いや、すまなかったな。情報提供に感謝する、もうしばらくの間は協力してもらうが、全てが終われば家に帰す事を約束しよう。この屋敷で働かされていた者達も家族の元へ送る事を約束する」

「あ、ありがとうございます!!」



ノイはリンの言葉を聞いて心底安心した表情を浮かべ、バーリの被害者は彼女だけではなく、他にも大勢の女性が苦しめられていた。兵士に保護された彼女達は事情聴取後は家族の元に送り返され、回収したバーリの財産から情報提供の報酬という名目でお金が支払われる。


あと少しだけ我慢すればノイも普通の使用人が10年も稼がなければ得られない大金を貰える。しかし、いくら大金を貰おうと彼女達の心の傷がいえる事はなく、ノイはバーリがどうなるのかを問う。



「バーリはどうなるのですか?もちろん、死刑ですよね?」

「ん、ああ……あの男がもう監獄から解放される事はない。安心してくれ」

「そうですか……」

「気持ちは分かるが、あの男のした事を思えば殺すだけでは駄目だ。奴は生涯、監獄の中で厳しい生活を送る方が長く苦しみを与えられる……そう納得してくれ」

「はい……」



バーリの終身刑は既に確定しており、ノイとしてはすぐにでも処刑した方が良いと思うが、まだバーリには色々と聞かなければならない事があった。彼が輸入した外国の商人から引き取ったガーゴイルの件も気にかかる。



(いったい何者がガーゴイルなどを送り込んだ……?)



ガーゴイルは本来はこの国には生息しない種であり、それを密輸した商人の事も調べる必要があった。そのためにバーリはすぐに処刑する事は出来ず、監獄の中で厳しい生活を送らせながら情報を吐かせる必要があった。





――その後、ノイは約束通りに解放され、バーリの屋敷で起きた出来事は誰にも話さないという条件の元、彼女は遂に自由を得た。彼女は両親の元に戻り、これからは普通の生活を送る事になるだろう。


しかし、王都から離れてからしばらく時間が経過すると、彼女の元に思いがけぬ仕事の話が訪れる事になる。




※ノイの出番はまだあります。本編をお楽しみに!!

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