第286話 実験中
「アルト王子?」
『ん?ああ、大丈夫だ。入ってきてくれ』
部屋の中からアルトの声が聞こえると、ナイは普通に扉を開けようとした。だが、扉を開いた瞬間に異臭が襲い掛かり、その強烈な臭いにナイは鼻を摘まむ。
「臭っ!?」
「ああっ……やっぱり」
「また変な実験をしてる」
「君達、変な実験とは何だ。失礼だね……」
扉を開くとそこにはアルトの姿が存在し、彼はガスマスクのような物を取り付け、手元には怪しい液体が入った試験管を手にしていた。ナイは鼻を摘まみながら部屋の中に入ると、研究室の様子を伺う。
研究室という名前どおりに部屋の中には様々な器具が管理されており、思っていたよりも部屋の中は狭い。正確に言えば大量の器具が場所を取っており、それで狭くように感じられる。
「ここが研究室……?」
「そうだよ、ようこそ僕の研究室へ。今、お茶を出してあげるよ」
「いらない」
「こんな臭いでお茶なんて飲めませんよ……」
「アルト、何してたの?」
アルトの傍に置かれている机には数種類の野草が並べられており、それらを利用して調合を行っていたらしく、アルトは怪しい色をした液体を混ぜ合わせていた。
「新しい回復薬の開発を試みてるんだが、今の所は失敗していてね。回復薬どころか劇薬を作ってしまったよ」
「それ、大丈夫……?」
「まあ、いざという時に何かに使えるかもしれないから捨てはしないさ。それよりもよく来てくれたね、歓迎するよ」
「王子、その顔に付けている変なのは外してください。怖いですから……」
「不審者にしか見えない」
ガスマスクのような物を取り付けたまま話しかけるアルトにヒイロとミイナは若干怯え、もしも暗闇でこんな姿をした人物と出会ったら不審者と間違われても仕方がない。
二人の言われるがままにアルトはガスマスクを取り外すと、改めてナイと握手を行う。怪しい色をした液体は試験管に蓋をすると、金庫のような外見をした金属の箱に封じ込める。
「これは封印だな……」
「あの、それは?」
「ああ、これは冷凍庫だよ。水属性の魔石と風属性の魔石で中の温度を下げているんだ」
「冷凍庫……」
アルトが劇薬と称した薬を冷凍庫に保管すると、彼はお茶を用意するためにガスコンロのような形をした魔道具を取り出し、火属性の魔石を嵌め込む。魔石をガス缶代わりに利用し、火を灯す。
「待っててくれ、すぐにお湯を沸かすからね」
「……これも魔道具?」
「ああ、僕が作ったんだ。ここにある魔道具の殆どは僕が作った物なんだよ」
「え、これ全部!?」
ナイは研究室を見渡して驚き、室内には多数の魔道具が保管されていた。その殆どがどんな用途で使われるのか分からない形をしており、その中には武器のような物も含まれていた。
「この短剣も?」
「それはヒートナイフさ。火属性の魔石を嵌め込む事で刃に熱を通して切れ味を上げるんだ。魔法金属製だから溶ける心配もないよ」
「えっ!?それって魔剣じゃ……」
「いや、ヒイロの烈火と比べたらお粗末な物さ。魔石の魔力で刃を熱するまではよかったんだけど、常に熱を放ち続けるからすぐに魔石の魔力を使い切ってしまうんだ。貴重な魔石を無駄にするなと怒られてしまったよ。発想は悪くはなかったと思うんだけどね」
「こんな物と私の烈火を一緒にしないでください!!全く、もう……」
短剣型の魔道具を説明してくれたアルトにナイは驚き、失敗作のようではあるが彼が本当に魔道具を作り出せる技術を持っている事に驚く。基本的に魔道具を作り出せるのは高い技術力を持つドワーフだけだと思われていたが、アルトの場合は自力でしかも単独で製作したらしい。
研究室には他にも色々な魔道具が存在するが、その殆どが失敗作らしく、一般人が到底扱える代物ではない。だが、冷凍庫やガスコンロ型の魔道具のように利用価値は高い代物もあった。
「今の所、この冷凍庫だけが人気が高いね。常に低温状態を維持するから食材の保管には最適だし、城の料理人には感謝されたよ。まあ、水属性と風属性の魔石の消費量が高くなるのが傷だけど……」
「そ、そうなんだ……あの、それで今日は僕は何をすればいいの?」
「おっと、そうだった。今日の君の仕事をまだ伝えていなかったね……今日の所は君の旋斧の実験を行いたいんだ」
「え?実験?」
「王子、ナイさんの武器の実験は前にしたじゃないですか?」
アルトの言葉にナイは意表を突かれ、ヒイロとミイナも意外そうな表情を浮かべる。旋斧が魔力を吸い上げる機能を持ち合わせている事は前に来た時に確認済みだが、アルトによると完全に旋斧の能力を全て確かめたわけではないという。
「確かにナイ君の旋斧が魔力を吸い上げる力を持っている事は判明した。だが、具体的にどの属性の魔力を吸い上げると、どんな効果を生み出すのかは確かめていないだろう?」
「まあ、確かに……」
「今回は旋斧が各属性の魔力を吸収するとどのように変化をするのか確かめるんだよ。じゃあ、ここで実験すると色々と危険だから外に出ようか」
ナイ達はアルトの意見に賛同し、研究室の外に出ると他の人間を巻き込まない場所に向かう――
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