第285話 アルトの屋敷

「私達もナイの護衛のために一緒に行動しろと言われてる」

「ナイさんの身の安全は私達が守ります!!」

「えっ……そんなに気を遣わなくてもいいのに」

「あれ?という事は……これからはみんなで一緒に同じ家に暮らせるんだね!!」

「そういう事になりますね……といっても、ずっと一緒に居られるかは分かりませんが」

「どういう意味だい?」



ヒイロとミイナもナイの護衛として行動するのならば一緒の屋敷に住む事になるのだが、ヒイロの最後の言葉にテンは疑問を抱くと、先日にアルトから伝えられた条件を話す。



「アルト王子がこの屋敷に暮らす条件としてナイさんは王子の仕事を手伝いをする事を承諾しましたね?」

「うん、約束したけど……」

「明日からナイさんは王城へ来てもらいます。仕事の内容はアルト王子が決めますが、とりあえずは明日は私達と一緒に来てもらいます」

「え~!?じゃあ、ナイ君は一緒にいられないの?」

「モモ、私達も暇じゃないわよ。建物の改築のために色々と仕事があるのよ」

「そういう事だよ、あんた達にも色々と手伝ってもらうからね。遊ぶ暇なんてないんだよ」

「ええ~……」



テン達も明日からは本格的に建物の改築のために色々と動くらしく、しばらくは忙しくなる。ナイも明日からは王城に赴くようにアルトから頼まれており、白猫亭の改築が終わるまではアルトの仕事を手伝わなけらならない。


屋敷を借りる条件としてナイはアルトの仕事を手伝う約束をしたが、具体的にはどのような仕事を行うのかは聞いていない。住む場所を提供してもらうのだからナイとしてもアルトのために尽力するつもりだが、肝心の仕事内容は当日に教えられる事に不安を抱く。



「仕事か……どんな事を頼まれるんだろう」

「ナイの力を生かすとしたら……護衛とか?」

「もしくは魔道具の開発のための実験に付き合わされるとか……ううっ、気が重いです」

「何であんた達の方が不安がってるのよ……」



どのような仕事をさせられるのかとナイは疑問を抱くと、何故かヒイロは顔色を青くさせ、ミイナも面倒そうな表情を浮かべていた。二人の態度にナイは不思議に思うが、この翌日にナイは二人の日頃の苦労を思い知らされる――






――翌日、ナイはミイナとヒイロと共に王城へ向かい、この時にビャクも同行を許された。今日はテン達も宿屋の改築のために仕事があるので屋敷に彼だけをおいていく事は出来ず、一緒に連れて行く事にした。


城門を潜り抜ける際はまたも訪れた白狼種に兵士達は戸惑うが、ヒイロとミイナは王国騎士(見習い)として普段から王城に出入りしているため、問題なく中に通してくれた。



「アルトは普段は何処に居るの?」

「王子は基本的に自分の部屋か、あるいは研究室にいます。それとナイさん……いくら王子から許可を貰ったとはいえ、他人が居るところでは呼び捨ては気を付けてください」

「あ、そうか……」



ヒイロの言葉を聞いてナイは慌てて周囲を見渡し、もしも王子を呼び捨てにしている所を兵士に見られたら問題である。下手をしたら不敬罪として捕まってしまう可能性もある。


忘れがちだがアルトはこの国の第三王子であり、本来ならば一般人であるナイが簡単に会える相手ではない。彼の態度と他の王子と比べても威厳がない事から忘れがちだったが、昨日はテンを叱りつけた時のアルトは王族らしく威厳がある振る舞いをしていた。



(アルトも本当に王子様なんだよな……これからは態度にも気を付けないと)



本人は気にしないというが、アルトは王子である事を自覚したナイは今後は人前での態度は気を付けようと思った時、ここで案内役のヒイロとミイナが足を止めた。二人の前には扉が存在し、研究室という表札が掲げられていた。



「ここは?」

「研究室……ここで新しい魔道具の開発のための実験が行われている」

「といっても、ここを利用しているのは城内であはアルト王子ともう一人だけなんですけどね」

「もう一人?」



以前にアルトはナイと遭遇した時は自分の事を魔道具職人と称し、実際に彼の技術は凄かった。瞬く間にアルトはナイが所有していたボーガンとミスリルの刃を改造してフックショットを作り上げた事はナイも忘れていない。


どうして王子であるはずのアルトが魔道具を作り出せる程の高い技術力を持っているのかは謎だが、この研究室は魔道具の開発が行われているらしく、アルトは普段はここに引きこもっているという。



「「…………」」

「……ん?どうしたの、入らないの?」

「いえ、その……」

「ここを開くのは勇気がいる」



何故かヒイロとミイナは扉を前にしても開ける様子がなく、ノックさえも行わない。どうして二人が立ち止まっているのかとナイは不思議に思うと、ここで二人はナイの後ろに下がった。



「そ、そうだ。ここはナイさんが最初に挨拶するのが良いと思います」

「私達に遠慮せずに開けて……」

「ちょ、ちょっと……!?」



背尚を押して扉を開ける様に促す二人にナイは嫌な予感を抱くが、いつまでも扉の前に待機しているわけにもいかず、ナイは扉を意を決して扉をノックすると内側から声が返ってきた。

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