第284話 テンの決意
「アルト王子……礼を言うよ、あたしは間違ってた。あの人の想い出のある建物を守る事が恩義に報いると思ったんだけど、それは違うね。客の安全も保障できないような宿屋に何の価値があるんだい」
「そうか……なら、どうするつもりだい?」
「うちの宿屋を改築するよ。それで従業員の方も増やす」
「え~!?」
「本気で言ってるの!?」
頑なに建物の改築を拒んでいたはずのテンが自ら建物の改築を行う事を宣言し、その言葉にヒナとモモは信じられない声を上げる。だが、吹っ切れた彼女はナイの肩に手を置き、安心させるように告げた。
「安心しな、あんたの事はあたしが守るよ。どんな客も自分の家の様に安心して休める宿屋にする……それがあの人と約束だった事を思い出したよ」
「テンさん……」
「別にあんたが責任を感じる必要なんかないよ。そもそも泥棒の侵入を簡単に許すような宿屋なんて誰も泊まりたがりたくなんかないからね。よし、こうなったら有り金を全部叩いて豪勢な宿に改築しようか!!」
「ほ、本当に!?」
「テンさんがそういうのなら……私達も頑張るわ!!」
テンの言葉にヒナとモモも賛同し、建物の改築を決意する。だが、テンの決意は立派な事だが建物が改築される間、彼女やナイ達は何処に住むのかが問題となる。
「でも、建物を改築するにしても私達はその間は何処に住めばいいのかしら……知り合いの家に泊めてもらうにしても、宿屋を借りるにしても困ったわね」
「う~ん、ヒイロちゃんとミイナちゃんが暮らしている家に住まわせてもらうとか?」
「だ、駄目ですよ!!私達は城内のに住んでるんですよ!?いくら友人といっても一般の方を泊まらせるわけにはいきません!!」
「まあまあ、落ち着くんだ。まずは僕の話を聞いてくれないか?」
宿屋の改築が終わるまでの間、ナイ達は何処で暮らすのか話し合うと、ここでアルトが口を挟む。彼はこの場に存在する面子の顔を確認し、とある提案を行う。
「白猫亭の改築が終わるまでの間、君達の仮住まいは僕が用意してあげてもいいよ。そうだな、富豪区にある僕の屋敷を貸してあげてもいい。富豪区は他の地区と比べても警備が高いからね、ナイ君を狙う泥棒が入り込む余地はないだろう」
「屋敷!?アルトは城の外に屋敷まで持ってるの?」
「ああ、といっても他の兄上たちの屋敷と比べれば少々小さいけどね。だけど、君達が住むくらいなら問題ない程度の広さはあるよ」
「本当にいいのかい?そこまで世話になるのは流石に気が引けるね……」
「構わないさ。その代わりと言っては何だが……屋敷に住まわせている間、君達には僕の仕事を手伝ってほしいんだ」
「仕事……?」
アルトが管理する屋敷に住まわせてもらう条件としてナイ達は彼の仕事の手伝いを頼まれ、自分達が何をさせられるのかと不思議に思うと、アルトは笑みを浮かべてその内容を告げた――
――後日、ナイ達は荷物を纏めると富豪区に存在するアルトの屋敷に訪れる。流石に王族が住む屋敷として非常に豪勢で立派な建物をしており、以前にナイが訪れたアッシュ公爵家やフレア公爵家の屋敷にも劣らなかった。
「わあっ……ほ、本当にこんな大きな屋敷に私達、住んでいいの!?」
「確かにこれほどの屋敷なら泥棒だって怖気づいて忍び込もうなんて考えないわね……」
「ちょいと広すぎて落ち着かないねぇ……」
「こんなに広いならビャクとも思い切り遊ぶことが出来るね」
「ウォンッ♪」
屋敷に訪れたナイ達はあまりに大きな建物と敷地の広さに驚かされるが、ビャクは広い敷地内を元気に駆け回り、ここならば思う存分に動き回る事が出来た。
ちなみに屋敷内にはナイ達以外にも使用人が数十名、更に警備のために兵士が配置されており、これならばナイを狙って泥棒が忍び込む事も有り得ない。そもそも富豪区自体が上流階級の人間が住む場所のため、他の地区の中でも最も警備が高い。
富豪区にはナイとは縁があるアッシュ公爵やフレア公爵の屋敷もあるため、もしも問題が起きたとしても公爵家に助けを求める事も出来る。現在のナイ達はアルトの客人として正式に迎え入れられているため、丁重にもてなされる。
「お待ちしておりました。私はこの屋敷の執事を務めるアルフと申します」
「ど、どうも……これからよろしくお願いします」
「そうかしこまらずに……皆様がここにいる間は何不自由がない生活を過ごせるように我々も全力を尽くします。どうぞ、何か欲しい物があれば何でもおっしゃってください」
「じゃあ、私達の部屋は全員個室でお願いしていい?」
「ミイナ、それはいくらなんでも図々しすぎますよ!!」
「ちょっと待ちな、なんであんた等もいるんだい!?」
何故かアルトの屋敷には彼の配下として所属しているヒイロとミイナも同行しており、その事に気付いたテンが驚きの声を上げるとミイナが説明を行う。
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