第283話 アルトの助言
「アルト……実は相談したいことがあるんだけど」
「相談?そういえばさっき、泥棒がどうとか言ってたね」
「うん、実は……」
ナイはこれまでの経緯を説明し、自分が目立ち過ぎたせいで白猫亭に連日のように泥棒が忍び込み、そのせいで宿に迷惑をかけてしまった事をアルトに話す。その話を聞いたアルトは今日自分の元に訪れた理由に納得し、頷く。
「なるほど、僕の元に来たのは泥棒の件を相談するために来たというわけか……」
「うん、何か良い案を教えてくれないかと思って……」
「ふむ、そういう事なら力を貸すのもやぶさかじゃないが……テン指導官、いや、敢えてテンと呼ばせてもらうよ」
「王子?」
アルトに話しかけられたテンは彼に振り返ると、アルトは先ほどまでとは表情を一変させ、真剣な顔を浮かべてテンに語り掛ける。その姿はバッシュやリノの姿と被り、今の彼は王族らしい威厳を感じられた。
「話を聞くところによるとナイ君は何度も泥棒に襲われているようだが、宿屋の主人である君はどうして彼を守ろうとしないんだい?」
「それは……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!そんな言い方は酷いよ!!」
「そうよ!!あ、いや……そうですよ!!女将さんだって泥棒を捕まえてるのよ!!いや、捕まえたんですよ!?」
「言いにくいのなら無理に敬語を使う必要はないよ」
テンを責めるアルトの言葉に彼女の宿で働く従業員のヒナとモモは抗議するが、そんな彼女達に対してアルトは淡々と告げる。
「そもそも宿屋に泥棒の侵入を許している時点で大問題なんだよ。本来、宿屋という場所は客が安心して身体を休める場所でなければならないんだ。つまり、泥棒に入られた場合の責任は宿屋側にもある」
「確かに……それは否定できないね」
「そもそも、たった3人だけで宿を経営する事自体が問題なんだ。普通の宿屋なら人員を増やして泥棒の対策を取るだろう。だけどテン、君はそれを怠って客であるナイ君に危険に晒した」
「……ああ、言い訳も出来ないね」
アルトの言葉にテンは言い返す事も出来ず、彼女自身も負い目を感じていた。そんな彼女に対してアルトはため息を吐き出し、問題の解決策を告げた。
「そこまで分かっているのならばどうして宿屋を改築したり、従業員を増やそうとしないんだい?まあ、理由は言わなくても分かってるよ。先代の主人の気持ちを汲んで建物をあのまま残しておきたいと考えているんだろう?」
「そこまでお見通しかい……その通りだよ。あたしは前の主人に約束したんだ、何があろうと宿を守って見せるとね」
――白猫亭は元々はテンが主人になる前は別の人物が経営を行っており、彼女は宿屋の主人には色々と世話になっていた。だからこそ騎士を辞めた時に彼女は主人に宿を任された時、どんな事があろうと宿を守ると約束した。
建物が寂れて客足が減ってもテンが頑なに改築しようとしなかったのは前の宿の主人との約束を守るためであり、彼女は何があろうと建物の外見を変える様な真似はしなかった。前の主人の思い出がある大切な建物を壊したくはないという彼女の気持ちも理解できなくはないが、それでもアルトは注意する。
「僕は白猫亭の前の主人と会った事がないからどんな人だったのかは知らない。だけどね、それでもこれだけは言わせてもらうよ。宿屋の主人ならば客の安全を保障する事が一番の仕事じゃないのかい?」
「うっ……」
「君のその考えのせいで客であるナイ君が危険に晒されたんだ。しかも泥棒が入り込む責任をナイ君のせいにするのはいただけない、元を正せば泥棒の侵入を許すような宿屋に僕は問題があると思うよ」
「ちょっと待ちなさいよ!!黙って聞いていればテンさんの気持ちも考えないで……」
「君の方こそ黙っているんだ。僕はテンに話を聞いている、君が宿屋の主人として自覚があるのなら……やるべき事はもう分かっているだろう?」
流石に黙って聞いてはいられずにヒナが口を挟もうとするが、それをアルトは叱りつけると彼女は何も言い返せず、モモも不安そうな表情をテンに向ける。
テンの方はアルトの話を聞いて自分の行いを思い返し、深々とため息を吐き出す。そして彼女はナイに振り返ると、ゆっくりと頭を下げた。
「……すまなかった、もう目が覚めたよ。あんたに責任を押し付けていたのはあたしの方だったね」
「えっ!?いや、別にテンさんのせいじゃ……」
「いいや、全部あたしのせいさ。あたしが昔の事に拘り過ぎたせいであんたには迷惑をかけた……その挙句に出て行こうとするあんたを止めもしないなんてあたしは宿屋の主人として失格だよ」
ナイが泥棒が入った時に自分の責任に思って出て行こうとした時、テンは強く留めなかった事を恥に思う。そもそも簡単に泥棒の侵入を許すような建物と警備が問題であり、彼女は気を取り直してアルトに振り返った。
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