第299話 マジクの助言
「ふむ、やはりお主と出会えてよかった。マホ殿も面白い弟子を見つけたな」
「あ、いや……僕はマホ魔導士の弟子じゃないんです」
「おっと、確かにそうだったな。しかし、そういう事ならば儂の弟子にならんか?」
「え!?」
マジクの思いがけない言葉にナイは驚き、マホと同じ魔導士のマジクから弟子に勧誘されるなど思いもしなかった。だが、すぐにナイは冗談だと思い直す。
「いや、僕は回復魔法ぐらいしか使えないし……それに聖属性しか適性がないので攻撃魔法は覚えられないと思います」
「うむ、それは知っておる。聖属性の魔法は主に肉体機能の強化、悪霊などの存在を浄化する魔法しか使えん。確かに攻撃魔法に利用するには不向きではあるが……それがお主が攻撃魔法が扱えないという理由にはならん」
「え?」
ナイはマジクの言葉に驚き、聖属性の魔法が攻撃に不向きである事を認めた上でナイが攻撃魔法を扱えない事を否定した。その意味が理解できずに戸惑う。
「あの、それはどういう意味ですか?」
「まだ分からんか……そういえばお主は魔操術を操れるそうじゃな」
「あ、はい……一応は」
魔操術の話を急に切り出してきたマジクにナイは頷き、マホから教わった魔操術のお陰でナイはこれまでに何度も命拾いしてきた。
現在のナイならば魔操術を利用して肉体の再生は愚か、全身の筋力を強化させる事で強化薬を飲み込んだ時と同じ状態になる事も出来る。しかし、その話を聞いてもマジクはナイが魔操術を完璧な意味で使いこなしていない事を伝えた。
「お主は根本から勘違いしているようだな。魔操術とは自分の体内の魔力を操る事だと思い込んでいるな?しかし、それは大きな間違いじゃ……お主が扱っている魔操術はただの基礎にしか過ぎん」
「基礎?なら、他に使い道があるんですか?」
「うむ、回復魔法を扱えるお主ならば薄々と気づいておるだろう。魔力を操れるようになれば外部にも魔力を放出する事が出来る事を」
マジクの言葉にナイは頷き、モモの顔が頭に思い浮かぶ。彼女は治癒魔導士や修道女ではないが、魔操術を駆使して他人の肉体を再生する技術を持っている。その回復力は高位の回復魔法にも劣らない。
ナイ自身は回復魔法は扱えるが、昔と比べて魔操術を覚えてからは一気に回復効果が高まり、通常の回復魔法とは比べ物にならない回復速度で治療できるようになった。だが、マジクによると二人が扱う治療方法は魔操術の応用の一つにしか過ぎないという。
「魔操術を身に付ければ体内の魔力を自由に操り、聖属性の適正が高い人間ならば回復魔法のように他者を癒す事も出来る。しかし、それはあくまでも体内の魔力を他人に分け与えているだけに過ぎん」
「じゃあ、魔操術は他にも使い道があるんですか?」
「ある、だが今のお主では到底真似できん」
「そんなに難しい事なんですか!?」
「いや、条件さえ揃えば今のお主でも出来るだろう。但し、それは自分で考えて身に付けた方が良い」
「自分で考えて……」
マジクは立ち上がると、ナイに背中を向けて立ち去ろうとした。だが、ここで何かを思い出したように彼に振り返って告げた。
「昔、儂も魔操術を教わった時に老師からこう言われたよ……難しく考え過ぎるな、柔軟な発想がでなければ魔操術を極める事は出来ない、とな」
「柔軟な発想……」
「マホ殿は才能があるからといっても誰彼構わずに自分の技術を教える御方ではない。きっと、あの人はお主に期待を抱いておられる。ならばその期待に応えてやってくれ……では、また会おう」
もう言い残す事はないのか、最後にマジクはナイの頭を撫でると笑みを浮かべ、今度こそ立ち去った。そんな彼に対してナイは黙って見送る事しか出来なかった――
――その日の晩、ナイは屋敷の自室にて窓から外を眺めていた。夜空の月を見上げながらナイはマジクに言われた言葉を思い返すが、どうしても答えが分からなかった。
(マジクさんはきっと難しく考え過ぎるなと伝えようとしてくれたんだろうけど、いったいどういう意味なんだろう……条件が揃っていない、か)
今日の出来事を思い返しながらナイはマジクの告げた「条件」というのが気になった。自分が魔操術を使いこなすのに必要な条件というのが思いつかず、ナイは自分が何か見落としているのかと考える。
(条件が揃ってないから出来ない。なら、逆に言えば条件が揃っていれば今の僕でも扱えるという事?でも、何だろう……条件か)
難しく考え過ぎるなと言われたのにナイは気づけば自分が考え込んでいる事に気付き、溜息を吐きながらベッドに横たわる。いくら考えてもマジクの言葉の意味が分からず、今日の所は休む事にした。
夜も更けてきたのでナイはベッドに横になるとすぐに睡魔に襲われ、眠りに就こうとした。だが、意識が途切れる寸前、ナイの脳裏に「魔操術」という言葉が思い浮かぶ。
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