第298話 貧弱という才能

「それにSPが余っていても実は今は覚えられる技能の数が少ないんですよね」

「む、それは本当か?」

「はい、ちょっと待っててくださいね……」



ナイは机に浮かんだ画面を切り替えると、今度は現時点で覚えられる技能の項目を表示させる。昔は技能を覚える度に新しく別の技能が表示されていたが、現在は随分と数が減っていた。



――習得可能技能一覧――



・命中――弓矢、投擲系の武具で攻撃する場合、命中率が上昇する(SP消費量:10)


・俊足――移動速度が上昇する(SP消費量:10)


・硬化――筋肉を凝縮させる事で防御力が上昇する(SP消費量:10)


・狂化――興奮状態へと陥るが、攻撃力が大幅に強化される(SP消費量:10)


・熱耐性――高熱に対しての耐性を得られる(SP消費量:10)



――――――――――――




表示された画面を見てナイは驚き、前回に見た時は表示されていなかった「硬化」「狂化」「熱耐性」の技能が追加されていた。王都に訪れる前は「命中」と「俊足」しかなかったはずだが、いつの間にか3つの新しい技能が追加されていた。


命中と俊足を覚えていなかったのは単純にSPが不足していたためであり、王都に到着時は覚える事が出来なかった。だが、今はSPは有り余っており、全ての技能を習得する事が出来るが、ナイが気になったのは新しい3つの技能に関してだった。



(この3つの技能……特徴から考えても、僕が倒した魔物が関係しているのかな?)



新たに追加されていた「硬化」「狂化」「熱耐性」はナイが倒したガーゴイル、ミノタウロス、ゴブリンメイジが関係しているように思えてならない。


硬化の場合は全身が硬いガーゴイル、狂化の場合は街中で暴れていたミノタウロス、そして熱耐性に関してはゴブリンメイジが火属性の魔法を扱っていた。もしかしたら魔物の中には倒す事で新しい技能を覚えられるのかもしれない。



(でも、ゴブリンメイジは前に倒した時は熱耐性の技能は追加されなかったよな……そこら辺はどうなってるんだろう?もしかして魔物の中にも倒したら技能が覚えられる奴とかもいるのかな)



かつてナイはドルトンが暮らすイチノの街にてゴブリンメイジを打ち破ったが、この時は新しく技能を覚える事は出来なかった。しかし、今回の場合は野生のゴブリンメイジを倒したら熱耐性の技能が付けくわえられていた。


もしかしたら魔物を倒して得られる技能には条件があるかもしれず、あるいはただの運任せかもしれない。だが、深く考えても仕方がないのでナイはこれらの技能を覚えるべきか悩む。



(全部覚えられるだけのSPはあるし、この際に覚えておこうかな……でも、狂化は止めておいた方が良いな。多分、この興奮状態というのは身体に良くない事だろうし……)



ミノタウロスと戦った時を思い出し、もしも狂化の技能がミノタウロスのように暴走して戦う能力だとしたら不用意に覚えるのは危険過ぎる。技能の中には必ずしも習得した人間に得を与えるとは限らない。



「……どうかしたか?何やら考え込んでおるようじゃが……」

「あ、すいません……」



ナイはここでマジクに話しかけられて現実に戻り、いつもの調子で画面を開いて自分がどんな技能を覚えようかと考え込んでしまった。その一方でマジクの方はナイのステータスを確認すると、難しい表情を浮かべる。



「なるほど、レベル1の人間が魔物を倒した等、にわかには信じがたいと思っていたが……これほどの数の技能を習得していれば納得も出来たぞ」

「そうですか……」

「しかし、解せんのはこれほどの技能を覚えることが出来るのに忌み子扱いを受けるとは……マホ殿の言う通り、お主の貧弱は決して蔑まれる技能ではない。むしろ、素晴らしい才能ではないか」

「え?」



自分の貧弱の技能を褒め称えてくれたマジクにナイは戸惑い、そのような反応をされるのは慣れていなかった。だが、確かにナイが今日まで生き延びる事が出来たのは貧弱の技能のお陰であった。



(貧弱が才能か……変な感じだけど、確かに悪い気はしないな)



貧弱の技能のせいで苦しめられる事も有ったが、確かにマジクの言う通りにナイがここまで強くなれたのは貧弱のお陰である。それにレベルが上がらなくても貧弱で覚えた技能のお陰でナイは着実に強くなった。


貧弱によってナイはレベルは毎度リセットされてしまうが、技能に関しては長期間放置すれば使い方を忘れてしまう事はあるが、効果は下がる事はない。むしろ使用すればするほどに効果が高まっており、現在のナイはレベル1でミノタウロスなどの強敵を打ち倒せる力を手にしている。



(ここまで来るのに苦労したけど、この貧弱のお陰で強くなれたんだ)



マジクの言う通りにナイはもう貧弱の技能の事を恥になど思わず、むしろ今ならば誇らしく思った。

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