第295話 マジク魔導士

「信じられぬ……まさか、このような若造に儂の魔法が破られるとは」

「ああ、忘れていた。マジク魔導士、協力してくれてありがとう」

「……え?魔導士?」



アルトは老人に振り返ると頭を下げ、彼の告げた言葉にナイは驚く。先ほど、老人は魔術兵だと紹介されたが、どうして彼の事をアルトは「魔導士」と呼んだのかと疑問を抱くと、老人はここで身に付けていたローブを脱ぐ。


老人はローブを脱ぐとその下に王国の紋様が刻まれた別のローブを纏っており、それを見た他の人間はアルトとナイを除いて跪く。彼は首を鳴らしながらアルトとナイの元に近付き、改めて自己紹介を行う。



「騙すような真似をしてすまなかったのう……儂の名前はマジク、魔導士じゃ」

「えっ……えっ!?でも、さっきは魔術兵だって……」

「すまない、ナイ君……彼は正真正銘の魔導士だよ。色々と理由があって今回は身分を隠して僕の実験に参加してもらったんだ」



マジクと名乗る老人は先ほどとは雰囲気が打って変わり、朗らかな表情を浮かべながらナイに挨拶を行う。その態度の変貌にナイは戸惑うが、アルトは改めて説明する。



「昨日、マジク魔導士が僕の元に訪れてね。その時に君の事を話したら、興味を抱いて君に会いたいと言ってきたんだ。でも、いきなり魔導士が君に会いたがってるなんて言ったら、緊張するだろう?」

「まあ、それは……」



アルトの言葉を聞いてナイは頷き、いきなりマホと同格の魔導士が会いたいなんて言われれば緊張してしまうのも当たり前だった。魔導士はこの国に3人しか存在せず、国に仕える魔術師の中では頂点に位置する存在である。そんな人物がいきなり会いたいと言えば緊張するなと言われても無理があった。


だからこそアルトは事前に他の者を呼び集め、話を合わせてナイに対してはマジクの事を宮廷魔術師から魔術兵に降格された人物として話を通す。どうして魔導士ともあろう人間がそんな役柄を引き受けたのかとナイは思ったが、彼はその辺の理由も説明してくれた。



「演技とはいえ、酒におぼれて宮廷魔術師から降格された人間を演じるのは苦労したがのう……だが、その方がアルト王子が面白いというから仕方なく演じたんじゃ。儂も中々楽しめたぞ」

「ええっ……」

「むしろ他の人間の態度が不自然だったのが気になったよ。君達、演技をするならちゃんと演技をしてくれないと」

「そ、そう言われましても……」

「魔導士様と同僚のように接するなんて出来ませんよ」

「私達も緊張した」

「ううっ……こういう演技は苦手です」



マジクはともかく、他の者達も彼の演技に合わせるために彼の事を魔術兵として扱わなければならない方が苦労させられた。ここでナイはヒイロとミイナが戦う前に自分に教えてくれた事も嘘だと思い出す。


よくよく考えればヒイロとミイネが魔術兵の素性に妙に詳しかったのも不自然であり、違和感はあった。だが、まさか演技してまで魔導士であるマジクが自分に会いたかったなどナイは動揺を隠せない。



「あの、どうして魔導士は僕と会いたいと思ったんですか?」

「うむ、実は先日にマホ殿からお主の話を聞いてな。実を言うとお主がこの王都に来る前から存在自体は知っておった。あのマホ殿が珍しく自分の弟子たち以外の子供を褒め称えて負ったからな。前々から興味はあったんじゃよ」

「え、マホ魔導士が!?」



ナイはマホから自分の事を聞いていたというマジクの言葉に驚き、彼の口ぶりからどうやらマホはナイが王都に訪れる前にマジクに話したらしく、今は彼女がどうしているのかを尋ねる。



「あの、マホ魔導士は今も王都にいるんですか?」

「いや、残念ながら少し前に王都から旅立たれた。丁度、お主がここへ来る少し前に王都を離れたよ」

「そうですか……」

「だが、彼女の弟子の何人かはここに残っておるはずだが、会ってはおらんのか?」

「え?本当ですか?」



マホの弟子と聞いてナイの脳裏にガロ、ゴンザレス、エルマの三人の姿が思い浮かぶ。マジクの口ぶりだと弟子の誰かが王都に残っているらしいが、今の所はナイは誰とも遭遇していない。


王都にマホが残っているのならば彼女に会いたいと思っていたナイだが、彼女の弟子が残っているとしたらマホが何処に向かったのか教えてくれるかもしれないと思い、後で探してみる事にした。マホには色々と世話になり、彼女の教えてくれた魔操術のお陰で命拾いした場面もある。



(もしかして僕が魔法剣を使えるのも魔操術のお陰だったりして……)



魔操術は魔力を操作する技術であるため、そのお陰でナイは初めてでありながら魔法剣も上手く扱えた可能性が高い。魔操術を使用する要領でナイは旋斧に蓄積された魔力を操作し、それを魔法剣として利用した。この理論が正しければナイが魔法剣を扱えたのはマホから魔操術を教わった事が要因となる。

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