閑話 〈ゴンザレスの苦労〉
「――何?それは本気で言っているのか?」
「ああ、本気だ。俺は冒険者になる」
王都の一般区に存在する巨人族用の宿屋にて、マホの弟子であるゴンザレスは自分の元に尋ねてきたガロの話を聞いて驚く。二人は兄弟弟子であり、お互いに年齢も近い事もあって仲は良かった。
ガロがマホの他に唯一に心を許しているのはゴンザレスであり、彼はゴンザレスの元に訪れると自分が冒険者になる事を告げる。だが、急にそんな事を言い出されたゴンザレスは戸惑いの表情を浮かべる。
「ガロ、お前は老師の元から離れるつもりなのか?」
「馬鹿言え、別に冒険者になるからと言って弟子を辞める事にはならないだろ」
「だが、冒険者になれば簡単には辞められないぞ。第一にどうして冒険者になろうと思ったんだ?」
唐突に冒険者になると告げてきたガロにゴンザレスは戸惑い、その理由を尋ねるとガロは面倒くさそうに頭を掻きながら答える。
「冒険者ってのは要するに魔物を倒して金を貰う仕事だろ?俺達もそろそろ老師に世話になりっぱなしじゃ格好悪いだろ。ここらで稼いで老師に恩返ししようとは思わないのか?」
「むっ……それはそうだが」
ゴンザレスはガロの言葉を聞いて眉をしかめ、確かに今の自分達は老師に養われる立場である事を思い出す。二人が泊まっている宿屋の代金もマホが支払っており、これまでの旅路の費用もマホが支払っていた。
魔導士であるマホは金銭面もかなり余裕があり、そこいらの貴族よりも金を持て余している。だが、日頃から彼女の世話になっているゴンザレスからすれば自分達の世話のために金を使わせている事に負い目を感じる。
「ゴンザレス、お前もどうせ暇を持て余してるんだろう。俺と一緒に冒険者にならないか?」
「しかし、働いて金を稼ぐなら他に方法もあるだろう……どうして冒険者なんだ?」
「馬鹿野郎、俺達の力を行かせるとしたら傭兵か冒険者だけだろうが……それに傭兵よりも冒険者の方が金を稼ぎやすいからな」
ガロとゴンザレスは旅の際中によく魔物と戦う機会も多く、修行の一環で危険種として指定されている魔物と戦わされる事もある。だからこそ魔物に関する知識と対抗する力が一番に生かせるとしたら冒険者しかないとガロは語った。
だが、ガロとゴンザレスはマホから王都に待機するように命じられており、勝手な行動を慎むようにしていた。しかし、一か月も経過してもマホから連絡が届かず、宿に引きこもる生活などガロには耐え切れなかった(彼の場合はよく外に出向いていたが)。
「ゴンザレス、これは老師へ恩返しするいい機会だ。俺達が冒険者になって金を稼いで老師に報いようとは思わないのか?」
「……何を考えている?お前がそんな事を言い出すなんておかしいぞ」
「はっ、流石に気づいたか……いい加減、この場所にも飽き飽きだ。そろそろ魔物どもと戦わないと身体が鈍りそうなんだよ」
「なるほど、戦いに飢えていたのか……」
ガロの言葉を聞いてゴンザレスは納得し、彼は昔から戦闘狂の節があった。最初に出会った時もガロは誰彼構わずに喧嘩を売り、戦いこそが最高の快楽だと信じていた。
ここ最近の間はガロは戦う事が出来ずにむしゃくしゃしており、王都を歩き回っては自分に絡んでくる輩を痛めつけていた。しかし、そんな事では彼は満足できず、自分が思い切り戦える相手を欲していた。そんな時にナイの噂を聞いて彼は更に苛立ちを抱く。
「王都の何処へ行ってもあの野郎の噂ばかり……もう、うんざりなんだよ!!」
「あの野郎?」
「ナイの事だよ!!お前も話は聞いているだろう!?」
「ナイだと?ナイがこの王都にいるのか?」
ゴンザレスはガロの言葉を聞いて驚き、彼はナイが王都に滞在している事は知らなかった。正確に言えば噂になっている少年の事は知っていたが、それがナイだとは気づいていなかった。
ガロはゴンザレスがナイの事に気付いていなかった事に呆れるが、ガロとしては一方的に敵視しているナイが自分よりも目立っている事が気に入らず、だからこそガロは冒険者になって名声を上げる事を決めた。
「ふん、今に見ていろ……俺は冒険者になって魔物どもをぶっ殺してやる。そうすれば俺の噂が広がってもうあいつの事を話す奴もいなくなるだろう」
「ガロ……それがお前の本当の目的か?」
「ああ、そうさ!!お前だって久しぶりに全力で戦いたいと思ってんだろ?なら、一緒に冒険者になろうぜ……俺達が活躍すれば老師だって俺達の事を認めてくれる!!」
「……悪いが、老師の言い付けを破るような真似は出来ない」
冒険者になる事にゴンザレスは抵抗感を覚え、それをはっきりと拒絶する。そんなゴンザレスに対してガロは驚くが、すぐに不機嫌そうな表情を浮かべて立ち去る。
「ちっ……なら、俺一人でやってやる。お前は老師が迎えに来るまでここで大人しくしてろ!!」
「ガロ……」
部屋から立ち去るガロを見てゴンザレスはため息を吐き出し、彼に言われた言葉を思い返す。
「恩返し、か……」
ゴンザレスはガロの言葉にも一理あると思い、老師が戻るまで黙って待つのではなく、自分もするべき事があるのではないかと考える。
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