第294話 魔術師との戦闘方法

「よろしくお願いします」

「ふんっ……儂はバッシュ王子様こそがこの国の王位に就くのに相応しい御方だと考えておる。悪いが、手加減はせんぞ……王子様の仇を討たせてもらう」

「はあっ……」



ナイに勝負を申し込んできた老人の魔術兵はどうやらバッシュを崇拝しているらしく、彼はある程度の距離まで離れるとナイと向かい合う。


今回は実戦方式とはいえ、旋斧が相手の魔法を吸収できるのかを試さなければならない。だからこそナイはまずは相手の出方を伺い、行動しなければならない。



(これぐらいの距離なら魔法を発動させる前に近付いて倒せると思うけど……まずはどんな魔法を撃ち込むのか確認しないと)



老人の魔術兵との距離を見計らい、ここでヒイロが審判役を行う。魔術兵はナイに向けて杖を構え、ナイも旋斧を構えるとヒイロが合図を出す。



「始めっ!!」

「この一撃で終わらせてやろう!!喰らうがいい、我が魔法を……スラッシュ!!」

「なっ!?無詠唱!?」

「危ない!!」



老人の魔術兵は詠唱を省略して魔法を発動させると、他の魔術師は驚いた表情を浮かべる。この世界では魔法を扱う際は詠唱を行うが、熟練の魔術師だと詠唱を短縮したり、あるいは省略して魔法を発動させる事も出来る。


元々は宮廷魔術師だっただけに老人の実力は他の魔術兵と比べても確かであり、彼が杖を振り下ろすと先端に取り付けられ散る魔石から三日月状の風の魔力の塊が放たれた。



(これが風属性の砲撃魔法……!?)



迫りくる風の刃に対してナイは咄嗟に身体を反らしてしまい、攻撃を避けてしまう。本来は旋斧で受け止めなければならないのだが、反射的に避けてしまった。風の刃はある程度の距離まで移動すると消散し、完全に消えてしまう。



「む、避けおったか……だが、これならば避けられまい!!」

「くっ!?」



自分の魔法を躱したナイを見て老人は眉をしかめ、今度は杖を横向きに振り払う。その結果、今度は横向きに三日月状の風の刃が放たれ、今度は規模も大きく、上空に飛ぶ以外に避ける方法はない。


しかし、ナイは迫りくる風の刃に対して今度は逃げず、ここで観察眼の能力を発動させる。迫りくる風の刃を見極め、両手に構えた旋斧を振り下ろす。



「はああっ!!」

「ぬうっ!?」

「風を……切った!?」

「違う、吸収したんだ!!」

「おおっ……格好いい」



ナイが旋斧を振り下ろし、剣の刃が迫りくる風の刃を切り裂きいた瞬間、風の魔力が旋斧の刃の中に吸収される。それを見たナイは驚き、旋斧の刃に竜巻のように風の魔力が纏う。



(成功した!!魔法を刃に吸い込む事が出来た!!)



風の魔力を吸収する事に成功したナイは旋斧を掲げ、ここである事を思い出す。先ほど、老人が魔法を撃ち込む際に杖を振り払う動作で攻撃の軌道を変えて撃ち込んだ事を思い出し、それと以前にヒイロが魔法剣の魔力を切り離して攻撃した事を思い出す。


ヒイロは「火炎剣」という火属性の魔力を刃に灯す魔法剣を得意としており、彼女は魔剣に宿した火属性の魔力を切り離して「火炎刃」という名前の火炎の刃を放つ事が出来る。それを思い出したナイは自分も同じことが出来ないのかを考えた。



(魔力を切り離す、か……やってみた事はないけど、出来るかな)



旋斧に纏った風の魔力を見てナイは先ほどの老人の攻撃を思い出し、本当に試しにではあるが剣を上段に構える。その様子を見て他の者達は戸惑うが、アルトはいち早く意図を察した。



「ナイ君、君はまさか……!?」

「うん、出来るかどうか分からないけど……はああっ!!」

「きゃっ!?」

「にゃうっ!?」



気合を込めてナイは地面に向けて刃を振り下ろした瞬間、旋斧に纏わりついていた風の魔力が放出され、地面に叩きつけられた際に土砂を吹き飛ばす。ナイの怪力に更に風圧が加わった一撃により、土砂が吹き飛んで大穴が誕生した。


その威力を確認したナイは呆気に取られ、仮に魔操術を発動させて全身強化した状態でもこれほどの一撃は生み出せない。だが、これで旋斧が吸収した魔力はナイの意志で自由に放出する事が出来ると判明し、それを見ていたアルトは感動した様子でナイに近寄る。



「凄い、凄いよナイ君!!君は今、間違いなく魔法剣を使ったんだ!!」

「魔法剣……これが?」

「ああ、そうだとも!!魔法剣はなにも武器に魔法の力を宿すだけじゃなく、宿した魔力を切り離す事が出来る!!しかも君の場合は適性がないはずの風属性の魔法剣を使ったんだ!!」

「し、信じられません……私が魔法剣を覚えるのにどれだけ時間が掛かったか」

「むうっ……」



ヒイロはナイが風属性の魔法剣を使った事に衝撃を受け、落ち込んだようにその場に座り込む。そんな彼女にミイナは肩に手を置いて慰める。


本来、魔法剣などの付与魔法は簡単に覚えられる技術ではない。しかもナイのように適正がないはずの属性の魔法剣を扱える剣士など存在しない。

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