第289話 漆黒の刃

「よし、次は火属性と聖属性以外の魔力を吸収した状態を確認したい!!」

「え、でも……どうやって魔力を吸収するんですか?」

「私は火属性の魔法剣しか使えないのですが……」



アルトの言葉にナイ達は戸惑い、他の属性の魔力を吸収させる方法など思い当たらない。だが、アルトには事前に考えがあるらしく、彼は身に付けていた収納鞄から魔石を取り出すと、それをナイに手渡す。



「これを利用するんだ」

「これって……魔石?」

「魔石の魔力を吸収させて確かめるつもりですか?でも、ナイさんの旋斧は聖属性の魔石しか吸収できないんじゃ……」

「大丈夫だ、その辺の事も考えてある」

「あ、あの王子……?」



兵士が再度アルトに話しかけようとするが、それを無視してアルトは魔石を取り出すと、この時に彼はナイにとっては懐かしい魔道具を取り出す。



「これを使って魔石を破壊し、その際に発生する魔力を吸収させるんだ」

「これって……もしかして壊裂?経験石を壊す時に利用する魔道具ですよね」

「ああ、その通りだ。最もこれは僕が改造を施した物だけどね」

「そ、そんな物まで持ってきてたんですか……」



アルトが取り出したのはナイが子供の頃によく利用していた壊裂と呼ばれる魔道具であり、外見は万力に近く、魔物から取れる経験石と呼ばれる魔石を破壊するのに利用される事が多い。


経験石は非常に硬く、力ずくで壊すのは難しいがこの壊裂を利用すれば子供の頃のナイでも壊す事が出来る。しかもアルトが取り出したのは魔石を破壊するために作り出した特別製らしく、これを利用して魔石を破壊して内部に蓄積されている魔力を解放させるという。



「通常、魔石を破壊すれば内部の魔力が暴発して大変な事が起きてしまう。だけど、この魔道具を利用すれば魔石をゆっくりと時間をかけて壊す事で魔力を少しずつ取り出す事が出来る。これを利用すればナイ君の旋斧にも魔力を送り込む事が出来るはずだ」

「そんな事、可能なんですか?」

「まあ、試作段階の魔道具だから失敗する恐れもある。だからここは壊れたとしても大きな被害を生み出さない魔石から試そう」

「ええっ……」



さらりと不安を煽る言葉を使うアルトにナイ達は焦りを抱くが、アルトは魔石の中から黒色の魔石を取り出す。それは以前にナイが聖属性の魔力を帯びた状態の旋斧が破壊した闇属性の魔石だった。



「よし、これでいいだろう。この魔石なら壊れたとしても問題はないだろう」

「闇属性の魔石……前に壊した時は黒い煙が出てきた様に見えたけど」

「闇属性の魔力は生物の生命力を弱める効果を持つ。だから触れるだけでも体調を崩し、場合によっては気絶する可能性もある」

「それの何処が問題ないんですか!?」



ミイナの言葉にヒイロは突っ込み、そんな危険な物を破壊しようとするアルトに抗議しようとするが、それに対してアルトは慌てて説明を付け加える。



「大丈夫だ、事前に今回用意した魔石は魔力が殆ど残っていない物を厳選したんだ。もしも壊れて魔力が暴走しても被害は最小限に抑えられるはずだから!!」

「本当でしょうね!?もしもナイさんの身に何かあったらテンさんにお仕置きされますよ!?」

「わ、分かってる……大丈夫だ、壊れたとしてもナイ君に危害はない。約束するよ」

「まあ、ここまで来たらやるしかないか……これに嵌め込めばいいんですよね?」



ナイはアルトの言葉を聞いて仕方なく彼が用意した魔道具を利用し、闇属性の魔石を嵌め込む。魔石が嵌め込んだ瞬間に万力の部分が勝手に動き出し、左右から徐々に圧力を加えて魔石の破壊を実行した。



「魔石に罅が入ったら剣を構えてくれ。そうすれば魔石が壊れた時に魔力が放出されて刃に流れ込むはずだ」

「分かりました……じゃあ、皆は離れていて」

「き、気を付けてくださいね」

「危ないと感じたら逃げた方が良い」



安全のためにナイは他の皆を下がらせると、アルトたちは早々に距離を取り、兵士達でさえも慌てて離れる。やがて魔道具に設置した魔石に亀裂が走ると、罅割れから黒煙を想像させる魔力が放出される。


罅割れから生じた魔力を見てナイは即座に旋斧を構えると、黒煙が触れた箇所から徐々に刃が黒色化していき、やがて魔石が完全に砕け散ると魔力を吸収した旋斧は黒色へと染まる。



(何だ、この感覚……変な感じだ)



聖属性や火属性の魔力を吸い上げた時とは異なり、ナイは漆黒の刃と化した旋斧を見て妙に落ち着かなかった。闇属性の魔力を吸収する事には成功したようだが、今の所は外見が変化した程度で変わりは感じられない。



「う、上手くいったのかい?」

「多分……」

「何だか変な感じがします……近寄りがたいというか」

「……見ているだけで落ち着かない」



漆黒の刃と化した旋斧を見て他の者も心が落ち着かず、ナイ自身も旋斧を手にしているだけで違和感を抱く。この状態だとどのような効果をもたらすのかは気になったが、不用意に試し切りを行うのは何故か躊躇われた。

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