第288話 旋斧の魔力吸収

「い、いきますよ……火炎剣!!」

「ヒイロ、出来る限りは威力を弱めてくれ。それとナイ君を狙うのではなく、剣の方に上手く当ててくれ。ナイ君も出来る限り気を付けるんだ」

「よし……何時でもいいよ」



ナイは覚悟を決めると、ヒイロは心の準備を整えて彼女は狙いを定め、決してナイの身体に炎を当てない様に気を付けながら刃を振りかざす。



「行きますよ……火炎刃!!」



ヒイロは剣を振り払った瞬間、三日月状の火炎の刃が放たれた。だが、ナイの事を意識し過ぎたのか火炎刃はナイの掲げた旋斧よりも高い位置に移動し、このままでは通り過ぎてしまう。



「くっ!!」

「ナイ!?危ない!!」



火炎刃が自分の掲げた旋斧の更に上空を通り過ぎようした光景を見て咄嗟にナイは跳び上がると、自ら火炎刃へと飛び込む。その姿を見てミイナは声を上げるが、ナイは迫りくる火炎刃に対して旋斧を振りかざす。



「うおおっ!!」

「これは……!?」



空中にてナイは旋斧を振り払うと、ヒイロが放った火炎の刃を巻き込み、地面に着地した際には旋斧に炎が宿っていた。やがて炎は吸収されるかのように刃の中に溶け込んでいくと、やがて旋斧の刃は赤色に光り輝く。


刀身が赤く変色し、更に強烈な熱気を放ち始めた事にナイは驚き、以前にガーゴイル亜種の炎の吐息を吸収した時と同じ状態に陥った。ナイは火炎刃を吸収した事で旋斧に火属性の魔力が宿った確信を抱き、その様子を見ていたアルトは興奮した様子で彼の元に向かう。



「す、素晴らしい!!本当に火属性の魔力を吸収した……やはり、これは魔剣だ!!」

「うわっ!?」

「王子様、何をしてるんですか!?危ないですよ!?」

「また暴走して……誰か、止めて」



アルトは旋斧の変化を見て間近で確認しようと近寄るが、高熱を発している旋斧に近付けば火傷を負いかねない。すぐにヒイロとミイナがアルトを抑えつけるが、ナイ自身も旋斧の変化に興奮を隠しきれない。



(凄い……爺ちゃんにも見せてやりたかったな)



ナイはもうこの世にはいないアルの事を思い出し、彼がもしも旋斧の真の能力を知ったらどんな反応をするのか気になった。結局はアルは旋斧の真の力を知る前に死んでしまい、その事が残念でならない。


アルは旋斧の事を魔法金属で構成されただけの剣としか認識しておらず、まさか魔力を吸収する魔剣の類だとは気づいていなかった。仮にそのような能力がある事を知っていればナイに隠すはずがない。



「ナイ君、試しにそれで何か切ってくれるかい?効果を確かめたいんだ!!」

「う、うん……分かったよ」



アルトの要望にナイは頷き、とりあえずは試し切りに最適な物を探す。この時にナイは訓練場に設置されている鎧を纏った木造製の人形を確認する。人型の人形に鎧兜を装着させた状態で立たせており、それを見たナイは試し切りには丁度いい素材だと判断した。



「じゃあ、行くよ……はああっ!!」

『おおっ!?』



気合を込めてナイは刃を振りかざすと、赤色に変色した旋斧の刃はいとも容易く鎧を身に付けた人形を切り裂き、一刀両断した。その光景を見て兵士達は驚き、鋼鉄の鎧を身に付けた人形を切断したナイの攻撃力に動揺する。


ナイ自身もそれほど力を込めたわけではないのにあっさりと人形が切れた事に驚き、更に切り裂かれた鎧人形は高熱を帯びた状態で倒れ込む。木造の人形に至っては炎が燃え広がる。



「うわっ……な、何だこれ、凄い威力だ」

「し、信じられません……」

「ヒイロの火炎剣と同じぐらいの威力……」

「なるほど、刃全体が高熱を帯びた事で攻撃力が上がっているのか。しかも切り付けられた箇所は熱を帯びて可燃性の高い素材だと燃えてしまうのか……これは興味深い!!」



旋斧は炎こそ纏っていないがヒイロの火炎剣と同程度の火力を誇り、しかも熱が帯びた事で切れ味の方も上昇していた。先ほどの攻撃はナイは剛力を使用していないが、鋼鉄製の鎧人形を容易く切り裂く事が出来た。


これほどの攻撃力を誇るのならば赤毛熊のような頑丈な毛皮と肉体を持つ相手でも一刀で切り裂けるかもしれない。むしろナイの剛力と組み合わせればより強い存在にも対抗できる。しかし、攻撃をした直後にナイの旋斧の刃は元に戻り、熱も収まってしまう。



「あ、元に戻った……そんなに長時間は維持できないみたい」

「ふむ、魔力を吸収してから十数秒ほどで消えてしまったか……聖属性の魔石の魔力を吸い上げた時はかなり長い時間は魔力を維持できたはずだが、吸収した魔力に応じて魔力を宿す時間が変化するらしい」

「お、王子様……これはいったい、どういう事ですか?」



流石に黙って見ていた兵士達もナイ達のやり取りを見て戸惑いを隠しきれず、彼等は何が起きているのか尋ねる。しかし、旋斧の実験はまだ終わっておらず、アルトは兵士の言葉が聞こえていなかったように次の実験を開始した。

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