第287話 火炎刃

――研究室から出たナイ達は実験のために人が少ない場所を探し、城内に存在する兵士の訓練場に訪れる。アルトは兵士に頼んで実験を行う事を伝えると、訓練の指導を行っていた兵士の隊長は承諾してくれた。



「すまないね、急に無理を言って……」

「いえ、お気になさらずに……ですが、王子様もお気を付けください。また失敗して大怪我を負われるような事があれば国王様もご心配します」

「ああ、気を付けるよ」



兵士の言葉にアルトは苦笑いを浮かべ、実験を開始した。今回は大勢の兵士達に見守られる中で実験を行う事になり、ナイは緊張しながらもアルトの指示に従う。



「よし、まずは魔法攻撃を吸収できるかどうかを確かめよう。ナイ君、準備はいいかい?」

「うん……あ、はい」



人目があるので流石にナイもアルトに敬語を使わなければならず、流石に王子とため口で話すと彼の威厳に関わる。ナイの確認を取るとアルトはヒイロに声を掛けた。



「ヒイロ、魔法剣を発動させてくれ。まずは付与魔法を施した物体の魔力は本当に吸収できないのかを確かめたい」

「分かりました……では、火炎剣!!」

『おおっ!!』



アルトの言葉にヒイロは即座に魔法剣を発動させると、彼女の手にした烈火に炎が灯り、この炎はヒイロの火属性の魔力を烈火が吸い上げて刀身に炎の魔力を纏っているに過ぎない。


通常の炎と比べて魔法で作り出した炎は普通の水で掻き消す事は出来ず、魔力を送り込み続ける限りは消える事はない。また、自分で作り出した魔法は自分の肉体を傷つける事はなく、ヒイロが自分の魔法剣で火傷を負う事もない。



「よし、ではまずは刃を重ね合わせてくれ。何か変化を感じたらすぐに教えてくれ!!」

「分かりました。ナイさん、温度は弱めてはいますが気を付けてください」

「うん、分かった」



ヒイロは刃に纏った炎の温度まで調整できるらしく、火力を弱めた状態の烈火にナイは旋斧を伸ばすと、お互いに刃を重ね合わせる。しばらくはその状態を維持するが、生憎と旋斧に変化はない。



「どうだい、ナイ君。ヒイロの魔法剣で生み出した炎は吸収できそうかい?」

「う~ん……多分、この状態だと無理だと思います」

「そうか、なら次の実験だ。ヒイロ、あの的に魔力を切り離して攻撃してくれ」

「あれですね?分かりました、やってみます」



火炎剣を維持した状態のヒイロにアルトは兵士が訓練の際に利用する巻き藁を指差すと、ヒイロは意識を集中させるように烈火を構え、刃を振りかざす。



「火炎刃!!」

「うわっ!?」

「おおっ……相変わらず、凄い威力」



10メートルほど離れた場所からヒイロは烈火を振りかざすと、刀身に纏っていた炎が放たれ、火炎の刃と化して巻き藁を破壊する。巻き藁は粉々に砕け散り、更に燃え尽きてしまう。


ヒイロの魔法剣は刀身に炎を纏うだけではなく、その炎を切り離して攻撃を行う事も出来るようだった。もしもこの技を最初にヒイロがナイと出会った時に放っていればもしかしたらナイは敗北していたかもしれない。



「ふうっ……やはり、距離が離れ過ぎていると威力が落ちますね」

「あれで威力が落ちているの?凄いな……流石は王国騎士」

「い、いえ、別にそれほどでもありませんよ」

「ふむ、ヒイロも大分腕を上げたね」



ナイが褒めるとヒイロは照れくさそうな表情を浮かべるが、そんな彼女に対してアルトも褒め称えるが、次の彼の言葉に度肝を抜かれる。



「それなら次はナイ君に向けてさっきのを放ってくれ」

「えっ!?」

「王子……本気?」

「本気だとも、ナイ君も構わないよね?」



アルトの言葉にヒイロは驚愕の表情を浮かべ、ミイナも信じられない顔を浮かべるが、彼は真剣な表情を浮かべてナイに振り返る。ナイは先ほど巻き藁を焼き尽くした火炎刃の威力を思い出し、もしも直撃すれば無事では済まない。



「魔法剣の状態では魔力を吸収する事は出来ないのは判明した。だけど、剣から切り離した魔力なら吸収できる可能性も高い。それを確かめるにはどうしても必要な事なんだ」

「で、でもナイさんを狙うなんて……」

「旋斧を地面に置いて火炎刃を放って魔力を吸収するか確かめるのは駄目?」

「いや、魔剣の類は人が触れた状態でしか能力を発揮しない事もある。だからどうしてもナイ君が所持した状態でないと駄目なんだ」

「……分かった、やってみるよ」



旋斧を手放した状態で魔法の攻撃を当てたとしても魔力を上手く吸収するかは分からず、どうしてもナイの手元がある状態で攻撃を行う必要があった。そうしなければ旋斧の能力は確かめきれず、ナイは冷や汗を流しながらも頷く。


ヒイロの正面にナイは移動すると、とりあえずは旋斧を上段に構えた。その様子を見てヒイロは焦った表情を浮かべるが、彼女はアルトとナイに視線を向け、覚悟を決めた様に烈火に炎を宿す。

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