第290話 疾風の刃

「これは……ここで試すのは危険かもしれない。残念だが、実験は先に延ばそう」

「うん、そうした方が良い」

「そ、そうですね……別に無理に確かめる必要があると思えませんし」

「それがいいかも……あ、消えちゃった」



漆黒の刃とかした旋斧を試し切りは先送りする事を決めると、やがて魔力が切れたのか旋斧の刃が元に戻り、時間的には十数秒ほどで消えてしまった。どうやら攻撃に利用せずとも魔力は常に消費されるらしく、アルトが用意した魔石はそれほど魔力が残っていなかったのか消えてしまった。


試し切りは行われなかったので闇属性の魔力がどのような効果を発揮するのは分からなかったが、魔力が消えた途端にナイ達は心が落ち着き、安心してしまう。気を取り直してアルトは新しい魔石を取り出す。



「よし、次はこれを試そう」

「ま、まだ続けるんですか?」

「当たり前じゃないか。まだ魔石は残ってるんだ、今度は風属性の魔石を試してみよう」

「私もちょっとわくわくしてきた」



気を取り直して新たな魔石を取り出したアルトにヒイロは呆れるが、ミイナの方はナイの旋斧がどのように変化するのか気にかかり、彼女は期待した様子で見つめる。


ナイ自身も次は旋斧がどのような変化をするのか気にかかり、この際だから全ての属性の魔力を吸収した後の変化を確認する事にした。黙って見学していた兵士達も興味があるのか、もう声を掛ける事もせずに様子を見守る。



「準備は出来たよ。ナイ君、頼んだ」

「よし……」



魔道具に魔石を嵌め込むとナイは旋斧を翳し、魔石が壊れるまで待機する。やがて魔石が罅割れて魔力を放出すると、これまでと違ってナイの旋斧に大きな変化が生じた。



「くぅっ……!?」

「きゃっ!?」

「にゃうっ!?」

「こ、これは……凄い!!」



風属性の魔力を旋斧が吸い上げた瞬間、刃の部分に緑色に光が宿ったと思われた瞬間、刀身部分に竜巻の如く風の魔力が拭き溢れる。


刃の周囲を竜巻の如く風の魔力が取り囲み、他の者達は吹き飛ばされない様に踏ん張る。ナイはしっかりと旋斧を握りしめ、刃に纏う風の魔力を見て戸惑う。



(凄い風圧だ……この状態で剣を振るのは力がいるな)



少しでも握力を弱めれば剣ごと吹き飛びかねず、しっかりとナイは旋斧を握りしめる。しかし、十数秒も経過すると刃に灯っていた光が消え去り、竜巻が消えていく。



「ふうっ……どうやら魔力が切れたようだね」

「凄い風の力でした……」

「ヒイロ、スカートが捲れて猫さんパンツが見えてる」

「きゃっ!?み、見ないで……って、そんな可愛らしいパンツは履いてません!!」

「あうっ」



ミイナの冗談にヒイロは本気で怒ったように彼女の頭を小突くが、これで4つの属性の確認は終了した。残されたのは水属性、地属性、雷属性の3つである。


ちなみに魔法の属性は全てで7つ存在し、風、火、水、雷、地、聖、闇の7つに分かれている。人間の場合は火属性の適正が高い者が多く、ドワーフなどは地属性、森人族の場合は風属性、獣人族は聖属性の適正が高い。


最も魔法の適正は個人差があるため、ナイのように人間でありながら聖属性の適正が非常に高い人間もいる。ヒイロの場合は火属性の適正が高いが、ミイナやテンはナイのように聖属性の適正が高い。



「よし、今度は水属性を試してみよう。準備はいいかい?休憩が必要なら言ってくれ」

「大丈夫、疲れてはいないよ」

「そうか、なら頼んだよ」



アルトは今度は水属性の魔石を魔道具に設置すると、今度はすぐに魔石が罅割れて魔力が流れ込む。旋斧刃に水属性の魔力が送り込まれ、やがて刃が青色に変色したかと思うと、急激に周囲の温度が下がっていく。



「うっ……」

「な、何だか急に寒くなったような……」

「くしゅんっ……気のせいじゃない」

「これは……なるほど、冷気を発しているようだね」



旋斧が変色した途端に刃から冷気が放出され、あまりの寒さに周囲の者達は身体を震わせる。ナイもあまりの寒さに旋斧を握りしめる手が震えるが、今回は試し切りを行う事にした。


先ほどの風属性の魔力を吸い上げた際は剣を支えるだけで試し切りをする余裕はなかったが、魔力が完全に切れる前にナイは試し切りを行うため、また鎧人形に向けて剣を振りかざす。



「くっ……やああっ!!」



身体を震わせながらもナイは鎧人形に向けて旋斧を振りかざすと、刃が鎧人形に触れた瞬間、金属の鎧が氷結化してしまう。その様子を見て慌ててナイは刃を離すと、そこには凍り付いた鎧人形だけが残っていた。






※兵士達「(´・ω・).。o(パンツ見えなかった……)」

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