閑話 〈銀狼騎士団副団長〉

――銀狼騎士団の副団長であるリンは団長不在の間、王都に滞在する銀狼騎士団の団員の管理を任されている。団長が不在の間は副団長であるリンが王都の守護を任されているが、そんな彼女の元に冒険者ギルドの役員が訪れた。



「今月も魔物の被害が増加していたか……先月も同じ報告だったな」

「ええ、正直に言えば我々だけではもう対応できないのです……各都市や街の冒険者ギルドも同じ有様でしょう」



冒険者ギルドの役員によると日に日に魔物の被害が多発しており、王都の冒険者では対応しきれない状態だった。近年、急激に魔物は数を増やしており、しかも原因は未だに掴めていない。


過去の歴史上でも急激に魔物が増える事態は何度かあったが、増加する要因は未だに解明されていない。魔物退治の専門家である冒険者を管理する冒険者ギルド自体が国に泣きつく始末である。



「王都周辺でも本来ならばこの地方には存在しないはずの種が出没するようになったという話聞いているが……予想以上に酷い状況だな」

「はい、ですが聞くところによると世界各地でも魔物が増加している傾向とか……」

「それは事実だ。王国以外の国も同様に魔物の被害が激化している」



魔物によって苦しめられているのはナイ達が暮らす王国だけではなく、他の国々も同様に魔物の被害が激増していた。現在、魔物は世界中で急速的に数を増やしており、その中には災害の象徴として恐れられるまでも含まれている。



「これはまだ未確認なのですが……王都の北部に存在するグマグ火山にて休眠状態だったはずの火竜が目を覚ましたという噂が市中に広まっております。我々の方はまだ確認していませんが……」

「火竜だと……ただの噂だろうが、一応は警戒しておく必要がある」



火竜という言葉にリンは冷や汗を流し、ギルドの役員も顔色を青くさせる。魔物の生態系の頂点に位置する「竜種」その中でも火竜は歴史上でも人的被害を多く出している。


かつて1匹の火竜が国を滅ぼしたという逸話も存在し、存在そのものが災害の象徴とさえ恐れられ、もしも本当に火竜が復活していたとなれば王国にとっては国家存亡の危機を迎えた事を意味する。しかし、火竜は滅多に自分の縄張りから離れる事はないため、刺激しない限りは人里にまで自ら赴く事はない。



「その噂の出所は調査しておこう。それよりも他に気になる事はあるか?」

「いえ、特にこれと言っては……あ、そういえば一つだけあります」

「ほう、何だ?」

「こちらも噂なのですが、先日に街中で暴れたミノタウロスを倒した少年の正体が何者なのかと街中で囁かれています。冒険者ギルドの方でもその少年が冒険者なのかと問い合わせがあり、傭兵ギルドの方でも同様の問い合わせが殺到しているそうです」

「……なるほど、それは興味深い話だな」



リンは冒険者ギルドの役員の言葉に表面上は冷静さを保つが、ミノタウロスを倒した少年の事に関しては彼女も報告を受けている。実際の所はミノタウロスを倒したのは冒険者でもなければ傭兵でもない事まで知っているが、ここは敢えて黙っておく事にした。



「ミノタウロスを倒せる程の実力を持つ少年がうちのギルドに所属する冒険者ならば、是非護衛として雇いたいという貴族や商人の方々が毎日のように訪れるのですが……」

「そうか、それでそんな話を私にして何が聞きたい?」

「いえ、その……王国騎士様であられるリン様ならばその少年の事を知っているのではないかと思い……」

「生憎だが私の方から何も言えないな。今日の所はもう帰ってくれ」



役員の言葉にリンは淡々と話を打ち切り、その態度に役員は食い下がろうとしたが、リンは冷たく答える。



「お待ちくださっ……」

「これ以上に話す事はない、二度も言わせるな」

「ひっ!?し、失礼しましたぁっ!!」



リンの迫力に役員は怖気づき、慌てて部屋の外へ逃げる様に出て行く。その後姿をリンは見送ると、彼女はため息を吐き出す。



「ミノタウロス殺しの少年、か……」



窓の外を眺めながらリンは一言だけ呟き、彼女は机の上に置かれた資料に視線を向けた。そこにはナイの似顔絵や彼の素性が事細かに記されており、既にリンはナイの事を調べていた。


どうして彼女がナイの事を詳しく調べていたかというと、それはリン自身がナイに強い興味を抱き、部下に命じて内密に調査を行わせた。だが、情報はまだ完全には集まり切れておらず、彼の素性は未だに不明のままである。



「いったい、何者だ……?」



ナイの似顔絵を見ながらリンは呟き、彼の事が非常に気になって仕方がなかった――

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