第281話 魔剣「旋斧」
「もしかしたら……この状態なら悪霊のような浄化魔法でしか倒せない敵を倒せるのかも」
「なるほど、確かにその可能性はあるかもしれないね。だが、実験しようにも悪霊を用意する事は流石に……いや、待てよ。そういえばあれがあったな」
ナイの言葉を聞いてアルトは何かを思い出したのか、収納鞄の中に手を伸ばすと今度は黒色の魔石を取り出す。その魔石を目にしたテンは驚いた声を上げる。
「王子、まさかそれは……闇属性の魔石かい?」
「えっ!?これが闇属性の魔石なの?」
「初めて見たわ……」
「市場では滅多に出回ってこない代物だからね……中々の貴重品だが、試してみよう」
「試すって……」
「これを斬ってくれ、遠慮なく全力で壊すんだ!!」
アルトは闇属性の魔石を取り出すと、それをナイに向けて放り込む。唐突に投げつけられた魔石にナイは戸惑うが、彼の言われた通りに魔石に向けて刃を振りかざす。
空中に放り込まれた魔石に向けてナイは旋斧の刃を叩きつけた瞬間、触れた瞬間に刃の輝きが強まり、魔石は呆気なく砕け散る。砕けた魔石から黒煙のような物が噴き出すが、その煙も旋斧の放つ光を浴びた瞬間に消え去る。
「うわっ!?」
「な、何!?何が起きたの!?」
「これは……やはり、そういう事か」
「……どういう事?」
闇属性の魔石が砕かれた光景を見てアルトは興奮した様子でナイに近付き、彼が所持している旋斧の刃を覗き込む。先ほど魔石を破壊した際に一層に輝いた刃だが、闇属性の魔石を破壊した直後に光が弱まり、今はもう元の状態に戻っていた。
「なるほど、そういう事か……ナイ君、君の言う通りだったよ。これは素晴らしい、本当に素晴らしいよ!!」
「え?ど、どういう意味?」
「さっき、僕が投げたのは闇属性の魔石を破壊した時、闇属性の魔力が溢れただろう?だが、その闇属性の魔力と相反する属性、つまりは聖属性の魔力を帯びた君の剣で魔力を打ち消したんだ!!」
「そ、それがどうしたの?」
「まだ分からないのかい!?いいかい、悪霊のような存在は闇属性の魔力で構成されているんだ。だが、君の旋斧は聖属性の魔力を帯びる事で通常ならば物理攻撃は通じない悪霊であろうと攻撃を通す事が出来る。それは即ち、今までは浄化魔法でしか倒せないと思われていた悪霊を君の剣ならば倒す事が出来るんだ!!これは凄い事なんだよ!!」
「王子様!?」
アルトは興奮が抑えきれない様子で旋斧を掴み、刃が食い込んだ手から血が流れる。その様子を見て他の者は慌てふためき、テンはアルトを無理やりに引き剥がす。
「馬鹿、何をしてるんだい!!指が切れるよ!?」
「ああ、離してくれ!!これほどの代物、滅多に調べられる物じゃないんだ!!」
「いかん、また王子様が暴走されておられる!!」
「誰か、止めるんだ!!」
使用人たちも駆けつけ、アルトの奇行を抑え込む。その様子を見てナイ達は唖然とした――
――しばらくすると落ち着いたのかアルトも冷静さを取り戻し、改めて席に座り直す。ちなみにアルトの怪我はナイが回復魔法を施して治してやると、彼は傷口が消えた両手を見て頷く。
「助かったよ……いや、迷惑をかけて申し訳ない。本当にすまなかった、久々に暴走してしまったよ」
「いや、別にいいんですけど……さっきのは何だったんですか?」
「びっくりしたよ~……」
「ウォンッ……」
アルトは落ち着くとナイ達は改めて先ほどの彼の態度は何だったのかを問い質すと、その言葉に対してアルトは少々恥ずかしそうに頬を赤らめながら答えてくれた。
「本当にすまない……僕は昔から魔道具や魔剣に目がなくてね。特に文献にも残っていないような物を見ると性能を調べてたくて堪らないんだ」
「は、はあっ……」
「だが、これでナイ君の旋斧の正体が判明したよ。これは間違いなく、魔剣の一種だ。しかも通常の魔剣とは異なる能力を持っているね」
「魔剣……やはり、そうでしたか」
ナイの旋斧の正体が「魔剣」である事が判明すると、ヒイロは納得したように頷く。ナイ自身も旋斧が普通の武器ではない事は気づいていた。
かつてアルが存命だった頃は旋斧は反魔の盾と同様に魔法金属で構成されているという話は聞いている。しかし、そもそも魔剣とはどのような物なのかナイはよく分かっておらず、質問を行う。
「魔剣の事はあんまりよく知らないんだけど……普通の武器とはどう違うの?」
「そうか、まずはそこから説明した方がいいね。魔剣とは分かりやすく言えば魔法の力を身に付ける事が出来る武器と言った方が良いかな……例えばヒイロの持っている烈火が炎を纏う場面を君は見た事があるんだろう」
「うん、何度か見た事はあるけど……」
王国騎士見習いのヒイロが所持する烈火と呼ばれる魔剣は炎を刀身に宿す事が出来る。しかもその炎はただの炎ではなく、炎の形をある程度は変化する事が出来た。
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