第275話 アルトのお礼

――王城内の食堂は白猫亭の10倍以上の大きさを誇り、100人近くの使用人が待機していた。既に机の上には豪勢な料理が並べられ、その席には以前にナイが助けたアルトという少年も座っていた。



「やあ、久しぶりだね」

「アルト……王子様」

「アルトでいいよ、君の事は気に入ってるからね」

「ワフッ……」



改めてナイはアルトと向かい合って彼が本物の王子であった事を思い知らされ、緊張感を隠せない。そんな彼にアルトは気さくに笑いかけ、ビャクは不思議そうに彼に首を傾げる。


ナイ達が来る人数を把握していたのか人数分の席が用意されており、今回はビャクのお礼という形だが、ナイ達の分の料理も用意してくれていたらしい。



「わあっ!?凄いご馳走だよ~良かったね、ビャク君!!」

「クゥ〜ンッ……」

「ん?どうしたんだい、食いしん坊のあんたが嬉しくないのかい?」

「あ、ごめん……机の上の料理を食べない様に躾けてあるから」



机の上に置かれた料理の数々は美味しそうだが、ビャクは寂しそうな表情を浮かべる。ナイの調教でビャクは机の上の料理は食べない様に躾けており、それに用意された料理の数々はどれも人間用のご馳走である。



「すいません、ビャクが食べられるような大きな皿はありますか?それを床に置けばビャクも食べられるので……」

「皿、ですか?分かりました、巨人族用の皿がありますのでそちらに料理を盛りつけましょう」

「あ、出来れば肉料理でお願いします。細かく切り分けた肉じゃなくて、大きめに焼いた肉が大好物なんですけど……」

「分かりました。すぐに用意致します」



ナイが使用人に頼むと彼等はすぐに調理場へと向かい、ビャクのために大きな肉を乗せた皿を用意した。それを見てビャクは嬉しそうな表情を浮かべ、嚙り付く。



「ガツガツッ……」

「良かったね、ビャク。アルト王子……いや、アルトでいいんだっけ。ありがとうございます」

「敬語も不要だよ、僕は王子といっても別にそんなに偉いわけでもないからね」

「なに言ってんだい、この国が建国されて以来の天才だと言われている癖に……」

「天才王子?」



アルトの言葉にテンは席に座りながら先に机の上に置かれた料理に手を伸ばし、アルトの言葉を否定する。そんな彼女にアルトは苦笑いを浮かべながら他の皆も席に座る様に促す。



「さあ、皆さんも席に座って……改めて自己紹介をさせてもらうよ。僕の名前はアルト、この国の第三王子だ」

「は、はは、初めまして王子様!!」

「ヒナちゃん、大丈夫?身体が震えてるよ?」

「な、なんであんたは平気なのよ……」

「まあ、そうかしこまらないで……王子と言っても僕はさっきも言ったけど、そんなに偉い立場の人間じゃないんだよ」



王子であるアルトを前にしてヒナは緊張気味に挨拶を行うが、そんな彼女にアルトは苦笑いを浮かべ、自分が王子だからといってかしこまる必要はない事を告げる。


他の王子達と比べてもアルトは物腰が柔らかく、正直に言えば王族としての威厳などは感じられない。最初に出会った時もナイは彼がこの国の王子だとは思いもしなかった。第一王子のバッシュや第二王子のリノと比べてもアルトからは何の気迫を感じられない。



「僕はこの国の王子ではあるけど、上のたちと違って王位継承権は持っていないんだ。将来、この国を継げるのはバッシュ兄上かリノ兄上だろうが、僕は国王の座に就く事はないだろうね」

「え?でも、第三王子なのに?」

「僕は他の二人と違って母親が違うんだ。バッシュ兄上もリノ兄上も正妻の息子だが、僕の場合は母親が側室でね。だから二人と違って王位継承権は与えられていないんだよ」

「そういえばそんな話、聞いた事があるわ……確か、アルト王子のお母様は平民の出身だったとかどうとか」



アルトは他の二人と違い、母親が違うらしく、彼は国王と側室の間に出来た子供である。側室は平民だったが、国王に気に入られて側室として迎え入れられたらしい。


母親が違うだけでアルトに王位継承権を与えられないなど酷い話のように思えるが、当の本人は別に王位を受け継ぐなど考えた事もなく、むしろ他の二人の兄と違って気楽に過ごせる事に満足していた。



「まあ、僕は別に王位継承権なんて興味はないんだ。僕なんかよりも兄上のどちらかがこの国を継ぐ方がよっぽど平和さ」

「王子……あんた、まだそんな事を言っているのかい?国王様は王子の事を……」

「おっと、父上の話はそこまでにしておいて貰おうか。テン指導官殿?」

「たくっ、相変わらずだね……」



父親の国王の話題になりかけるとアルトは話を打ち切り、その態度にテンはため息を吐き出す。その様子を見てアルトと父親の国王の間に何かあったのかとナイは不思議に思うが、改めてアルトはナイと向き直る。



「そんな事よりもナイ君、僕が前に作った道具は役立っているかい?」

「あっ……うん、アルトの用意してくれたこれのお陰で助かったよ」



ナイはアルトの言葉に頷き、実際にアルトが作ってくれたフックショットがなければミノタウロスの戦闘の際、モモを救う事は出来なかったかもしれない。その事にナイはアルトに感謝を告げた。

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