第274話 再び王城へ

王城に馬車が辿り着くと、既に事前に連絡は受けていたのか城門は開いており、見張りの兵士達もナイ達に敬礼を行う。



「お待ちしておりました、馬車はこちらの方で預かります!!」

「おう、ご苦労様……王子は何処だい?」

「はっ!!王子様は既に食堂の方で待ち兼ねております!!」

「食堂?」



ナイは食堂にアルトが待っているという言葉に戸惑い、約束のご馳走を食堂に用意しているのかと不思議に思う。食堂に赴くとなればビャクは通路を歩く事になるのだが、そんな事をしても大丈夫なのかと心配する。



「あの……うちの子はどうしたらいいんですか?中に入ってもいいんですか?」

「クゥ〜ンッ?」

「は、はいっ……王子様から丁重に扱われよと仰せつかっていますので、遠慮なくお通り下さい」

「ウォンッ!!」



ビャクを間近に見て兵士達は少々焦った声をあげるが、アルトからビャクは客人として扱うように言づけられており、ビャクを連れて通路を歩いても問題ない事を伝えた。


王城内は大勢の人間や巨人族でも通れるように設計されているため、ビャクが通っても問題ないほどの天井は高く、通路も広かった。ビャクは滅多に建物の中を歩く事はないため、嬉しそうに周囲を見渡しながら歩く。



「ウォンッ♪」

「あははっ、ビャク君も嬉しそうだね。尻尾をふりふりしてる」

「いっておくけど、無暗に物に触れるんじゃないよ。もしも壊したりしたら弁償するのはあんたのご主人様なんだからね」

「大丈夫ですよ、ビャクは良い子だから無暗に壊したりしません。ね、ビャク?」

「クゥ〜ンッ……」



ナイの言葉にビャクは彼の頬を舐め、興奮が収まらない様子だった。そしてナイ達は王城を歩いていると、通路を歩いている途中で見知った顔の人物と出会う。



「あれ?あの人って……」

「銀狼騎士団の……副団長さんよね?」

「わわっ!?私、こんなに近くで見るの初めてだよっ……」



通路を歩いていると向かい側の方から騎士達を引き連れたリンの姿が存在し、彼女はナイ達の姿を見て少し驚いた表情を浮かべる。そんな彼女にテンは気軽に声を掛けた。



「リン、久しぶりだね……という程でもないか、この間も会ったばかりだからね」

「テンさん……いえ、指導官殿。先日ぶりです」

『ご苦労様です!!』

「よせよせ、そんな堅苦しい挨拶は私が苦手なのは知っているだろう?」



リンはテンを見て敬礼を行うと、他の騎士達も敬礼を行う。この時にナイは前々から思っていた疑問を尋ねる。



「そういえば前の時から気になってたんですけど、どうしてテンさんは指導官と呼ばれてるんですか?」

「ああ、それは……」

「テン殿は月に一度、この城に訪れて各王国騎士団の指導をしてくださる。現役を退いたとはいえ、テン殿の功績は大きい。そのため、指導官の位を国王陛下から携わっている」



テンが説明する前にリンが口を挟み、彼女がどうして指導官と呼ばれているのかを説明してくれた。テンは既に王国騎士の座から引退しているが、未だに指導官として王国騎士団の指導をする立場らしい。


既にテンが現役を引退してからかなりの時が経過しているが、未だに彼女は王国騎士の中では信頼厚い人物らしく、銀狼騎士団と黒狼騎士団の副団長であるリンやドリスからも尊敬される人物だという。



「あたしとしては指導官なんてもう必要ないと思うんだけどね。あんた達は立派に育った、もうあたしなんて必要ないだろ……このおてんば娘達と違って」

「うっ……」

「……未熟なのは認めるけど、その言い方は酷い」



テンはヒイロとミイナの頭に手を置き、彼女達はまだまだ王国騎士としては未熟なため、自分の指導が必要だと判断する。しかし、他の王国騎士にはもう自分の指導など必要ないと思うが、そんな彼女にリンは首を振った。



「いいえ、我々はまだテン指導官の力が必要です。何時の日か、我々は今は亡き王妃様や指導官のような立派な騎士に……」

「あの人の事を語るのは止めな!!」

「えっ!?」

「テ、テンさん?」



リンが王妃の単語を口にした瞬間にテンの表情が一変し、怒鳴りつけた。その態度に他の者は戸惑うが、テン自身も自分の発した言葉に驚き、ばつが悪そうな表情を浮かべる。



「ああ、いや……悪いね、つい大声を出しちまった。すまないね……」

「いえ、気にしないでください……」

「……けど、これだけは覚えておきな。誰もあの人を越える事は出来ない、越えられるはずがないんだよ」

「テンさん……?」



テンの言い回しにナイは不思議に思うが、彼女は黙って歩き出す。そんなテンに慌ててナイ達は続くが、リンはその後姿を見てため息を吐き出す。



「まだ引きずっていたか……」



去っていくテンの後ろ姿を見送りながらリンは改めて気を張り直し、部下を連れて仕事へと戻る――

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