第273話 第三王子の協力
――アルトという名前を聞いてナイが真っ先に思い出したのは先日、王都の外にて魔物に襲われていた少年だった。その少年のお陰でナイはボーガンを改造して貰い、新たにフックショットという武器を作ってもらう。
フックショットのお陰でミノタウロスの討伐に成功し、彼のお陰でナイはモモを守る事が出来たといっても過言ではない。最初に分かれた後からもう会う事はなかったが、ミイナの話を聞いてあの時にアルトと名乗った少年がこの国の第三王子である事を知る。
以前に二人が第三王子に仕えていると聞いた時にどんな人物なのか尋ねようと思ったが、二人の立場からすれば自分の主君の事を無暗に明かすわけにはいかずに教えてくれなかった。いくらが気心が知れた相手とはいえ、ナイはあくまでも一般人である。だが、今回は王子の方からナイに招待をしてきた。
「王子からナイと会ったら、約束通りにビャクにご馳走したいから城に来てほしいと言われた事を忘れてた」
「ビャクが……あっ」
ナイはアルトと会った時、彼はビャクのお陰で命拾いしたのでお礼として今度会う時はご馳走すると言っていた。あれは冗談の類ではなく、アルトは本気で言っていた事が判明した。
「あんた、あのアルト王子とも知り合いだったのかい?」
「テンさんもアルトの事を知ってるんですか?」
「そりゃ、同然さ。あの王子には色々と世話を焼かされたからね……ちょっと変わった子だけど、まあ悪い子じゃないよ」
アルトの話をするとテンは面倒くさそうな表情を浮かべ、彼女からすればアルトは他の王子達と比べても一番の問題児らしい。但し、別に嫌っているわけではないらしく、彼女はアルトに相談する様に促す。
「そういう事ならアルト王子に会って話してみな。仮にも王族だからね、きっと力になってくれるよ」
「そうした方が良い。アルトもナイに会いたがってた」
「なら、もっと早く連絡してよ……」
「……忘れてたから」
既にナイがアルトと別れてからそれなりの日数は経過しており、どうしてもっと早くに教えなかったのかと抗議すると、ミイナは視線を逸らす。
ミイナがうっかり忘れていたせいでアルトとの約束を果たすのが遅くなってしまったが、状況的には都合がいい。この際に約束を守ってもらうのと一緒にナイは泥棒の件についても相談する事にした――
――それからヒイロとミイナは一旦は王城へと戻り、アルトの元へ向かう。彼女達が仕えているのはアルトであり、将来的にはアルトは白狼騎士団の管理を任される立場である。
この国では王族であるならば騎士団を管理する事を義務付けられており、アルトの場合はヒイロとミイナが所属する「白狼騎士団」の管理を任されている。だが、彼は成人年齢に達していないため、正式には白狼騎士団に所属するヒイロとミイナは王国騎士見習いとして扱われている。
彼女達が仕えるアルトが成人年齢を迎えれば白狼騎士団は正式に騎士団として認められ、晴れてヒイロとミイナも見習いではなく正式な王国騎士として認められる事になっていた。
だが、今現在は二人は王国騎士見習いのため、重要な仕事は任せられない。そのため、普段の彼女達は警備兵と共に王都内の巡回を行い、城下町の治安維持に勤しんでいる。場合によっては他の騎士団の仕事を手伝わされる事もあるという。
「アルト王子から正式な許可を頂きました!!今すぐにお会いしたいそうなので王城へ来てください!!」
「えっ!?今すぐに!?」
「はい、それと他にお友達がいるのなら一緒に来てくれても構わないそうですが……」
「えっ!?なら、私もお城に入ってみたい!!ヒナちゃんも行ってみたいよね?」
「そうね……お城に入れる機会なんて滅多にないし、でも仕事が……」
「そういう事なら今日は休みにするよ。私も久々にあの王子と顔を合わせたいと思ってたからね」
王城からヒイロとミイナが戻ってくると、二人は馬車を連れていた。アルトの計らいでナイとビャク以外にも連れて行きたい人間がいるのならば同行を許可され、この際にテンは宿屋を休みにして自分達も同行する事にした。
全員が馬車の中に乗り込み、ナイはビャクを連れて馬車の後ろに続く。その様子を見た街の人々は驚いた表情を浮かべる。
「な、何だ……あの豪勢な馬車?」
「おい、後ろに付いていってるの……あれ、白狼種じゃないか?」
「背中に乗っているのはまだ子供だぞ……何が起きてるんだ?」
人々は王城へ向かう馬車とその後ろに続くビャクに乗ったナイを見て不思議そうな表情を浮かべ、これだと増々目立ってしまいそうだが、アルトがビャクを連れてくる事を要望しているので仕方がない。
「ビャク、ご馳走を用意してくれるそうだけど城の中では大人しくしろよ」
「ウォンッ♪」
ご馳走という言葉にビャクは嬉しそうな声を上げ、尻尾を振る。そんな彼を見てナイは頭を撫でるが、今回の目的は第三王子のアルトの力を借りて現状を脱するためである。そのためにはアルトの気分を害する様な態度は取らないように心掛ける。
(アルトか……まさか、王子だったとは思わなかったな)
アルトと最初に会った時はナイは彼が王子だと気付かず、バッシュのような気迫を感じられなかった。それこそ何処にでもいるような少年にしか見えなかったが、本当に彼がこの国の第三王子なのかと思いながら歩いていると、遂に馬車は目的地に辿り着く。
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