第272話 噂
「さて……まずはナイ君が泥棒に狙われる理由から話し合いましょう。といっても、もうここにいる皆は察しているでしょうけど」
「やはり、例の噂ですね……」
「ミノタウロス殺しの少年の噂のせい」
先日、ナイは城下町に現れたミノタウロスをたった一人で仕留めた。その光景は街中の住民も確認しており、既に街中では噂になっていた。
ミノタウロスを単独で倒せる人間など王都中を探しても10人もいるかどうかであり、しかも倒したというのは魔物退治の専門家の冒険者でもなければ傭兵でもないただの少年だというのだから噂にならないはずがない。
「ミノタウロスを殺した少年がいるという話はもう街の何処でも持ちきりね……しかも、その少年は普通とは異なる武器と盾を持っていた事まで知られている」
「まあ、それは仕方ないね。王国広しと言えどもそんな変わった形の武器を持っているのはあんたぐらいだろうしね」
「うっ……」
ナイは旋斧に視線を向け、改めて旋斧が普通の武器とは異なる形状をしているせいで目立つ事を思い出す。旋斧は長剣に斧の刃を組み合わせたような形をしており、割と派手な外見をしている。しかも刃の形状のせいで鞘などには納める事が出来ず、常に抜き身の状態で持ち歩くしかない。
更にナイの所持している反魔の盾は円盤型で珍しい形をしており、こちらも特徴的だった。そんな剣と盾を所持して動いていたら他の人間の注目を浴びるのも仕方がなかった。
「これまでに入ってきた泥棒はナイ君の装備を見て噂の人物だと気付いたようね。それと噂といえばやっぱり、もう一つの噂のせいで面倒な事になってるのよね……」
「バッシュ王子が反魔の盾の所有権をナイさんに託した噂ですね……」
反魔の盾は元々は王国が所持しており、ゴマンの先祖の騎士ゴルドに渡された物だが、現在はゴルドの家系の人間がいないという事でナイが管理を任されている。これは王族であるバッシュが正式に認めた事であり、既に彼は国王の許可を得てナイに反魔の盾の管理を任せている。
しかし、この事が何処から漏れたのか街中では伝説の盾を王族ではない人間が所持しているという内容が城下町の住民に広まっており、そのせいもあってナイが所有する反魔の盾を狙う輩もいた。実際に今日は言った泥棒はこちらの噂も聞いていたので彼の盾も奪おうとした。
「たくっ、たかか噂だと思って気にしていなかったけど、こうも噂にたぶらかされて泥棒をするような奴等がいるなんてね。どうなってるんだい、王都の治安は?」
「うっ……面目ありません」
「……どんなに平和な場所でも悪い事を考える人間は出てくる」
王都の治安維持を任されているはずの王国騎士(見習い)の二人にテンは首を向けると、ヒイロは申し訳なさそうな表情を浮かべるが、ミイナの言う通りに全ての悪人を取り締まる事など出来はしない。
噂を聞きつけて良からぬ考えをする人間全員を止める方法などなく、問題なのはその人間達をどのような手段で防ぐのか問題だった。毎回宿屋に泥棒が入り込めばナイだけではなく、宿にも迷惑が被る。
「やっぱり、僕がここにいるからいけないと思います。近いうちにこの王都から離れようと思います」
「駄目駄目!!そんなの絶対に駄目だよ!!」
「そうよ、ナイ君は悪い事なんてしてないんだから……泥棒なんかに屈したら駄目よ!!」
「そうですよ!!悪人を取り締まるのは私達の役目なんですから、私達に頼って下さい!!」
「と言っても……流石に私達が四六時中護衛を行うわけにもいかない」
ヒイロもミイナも仕事があるのでナイの護衛を行い続けるわけにもいかず、そもそも王国騎士がナイの護衛を行えれば彼が噂の少年である事が明白になってしまう。
「何かいい方法はないのかね……ほとぼりが冷めるまで他の場所に身を隠すとかぐらいかね」
「バッシュ王子に相談するのはどうかしら?元々はバッシュ王子がナイ君に反魔の盾の管理を任せるために派手に戦ったのが原因だし……」
「むむ、無理ですよ!?あの人は王子なんですよ、そんな気軽に相談できる御方じゃありません!!」
「そうだね、それにナイは仮にもバッシュから反魔の盾の管理を任されている立場なんだよ。バッシュはナイを信じて反魔の盾を任せているのに、相談なんてしたら盾を守るという約束を疑われかねないからね」
王族であるバッシュに力を借りる事は難しく、テンも難色を示す。しかし、ナイに頼れる当ては他にはなく、全員で悩んでいるとここでミイナが何かを思い出したように告げる。
「あっ……そういえば王子からナイにお礼を言うように頼まれていた」
「え、お礼?」
「どういう意味だい?あんた、バッシュ王子と繋がりがあったのかい?」
「違う、バッシュ王子じゃない……私がお礼を頼まれたのは第三王子、つまりは私達の騎士団の団長」
「まさか……アルト王子様ですか!?」
「アルト……?」
ミイナの言葉にヒイロは驚愕の表情を浮かべ、その一方でナイはアルトという名前を聞いて不思議そうに首を傾げた。
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