閑話 〈二人目の魔導士〉

――ナイが王都に訪れる少し前、彼に魔操術を授けたマホ魔導士が王城に赴いていた。彼女は国内に3人しかいない魔導士の中でも最古参であり、先々代の国王の代から仕えている。


基本的にマホは国内を弟子たちを連れて渡り歩いており、彼女が一か所に滞在しないのは優秀な人材を見極め、勧誘を行うためである。この勧誘とは自分の弟子に迎え入れるだけではなく、国にとって将来的に有用な人材の勧誘も兼ねているため、国王も彼女の行動を制限しない。


マホの他の二人の魔導士も元々は彼女が若かりし頃に見つけた人材であり、二人とも彼女の弟子であった。現在のマホは3人しか弟子を迎えていないが、彼女の世話になった人材は多い。



「マホ殿、よくぞ戻られたな」

「うむ、久しぶりじゃな。それにしてもお主、また老けたのではないか」

「ははは、もう国に仕える者の中では儂よりも年上の者はマホ殿だけですな」

「これ、儂はぴちぴちじゃぞ。永遠の10才じゃ」



王城の一室にてマホは王家の紋章が刻まれたローブを身に纏った男性と向かい合い、共に薬草を煎じたお茶を飲む。



――この老人こそがマホと同じくこの国の魔導士を務める「マジク」という男性であり、彼は数十年前まではマホの弟子だった。



若い頃からマジクは魔術師としての才能に恵まれ、年老いた現在でも彼を越える魔術師はいないとさえ言われている。人望も厚く、国王からの信頼も厚い優秀な魔術師でもある。



「それにしても急な御帰りですな。戻ってくるのはもう少し先の事だと思っておりましたが……」

「うむ、ちょっと色々とあってな……そうそう、実は今回の旅で面白い人材を見つけてな。まだ年若い少年だが、将来性は高いぞ」

「ほう、ではその者は弟子に迎え入れたのですか?よろしければ顔を見たいですな」

「いや、弟子にはなっておらん。しかし、いずれこの王都にも訪れるであろう」

「ほう、それはそれは……」



マホの口ぶりからマジクは彼女の語る少年に興味を抱き、その一方で彼女の今の弟子たちの事が気になった。



「そういえばマホ殿の今の弟子たちはどうしておられる?エルマは元気かな?」

「ふふふ、そういえばお主は若い頃にエルマにぞっこんだったのう。今ならば二人とも独り身なのだから見合いでもするか?」

「ご、ごほんっ!!御冗談を……」



マジクはマホの言葉を聞いて咳き込み、そんな彼を見てマホは笑みを浮かべる。エルマは若く見えるがマホと同じくエルフの血筋であるため、実年齢はマジクと大差はない。


若い頃のマジクはエルマに惚れていたが、彼女には相手にされなかった。結局は別の女性と結婚したが、既に妻には先立たれて子供も独り立ちしている。



「エルマもお主の事は気にしておったぞ。しばらくは儂等も王都にいるから、後で顔を見せると言い」

「ふむ……しばらく、という事はまた旅に出られるのですか?」

「うむ、少し気になる事があってのう……だが、今度の旅はそれほど長くないはずじゃ」

「そうですか……行先は何処ですかな?」



マジクの言葉にマホは北の方角に視線を向け、彼女は告げた。




「――グマグ火山じゃ」

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