第267話 投げ技
ドリスはリンダにナイに興味がある事や、彼がどのように戦ったのかを語る。その話を聞いていたリンダはナイの戦法を知り尽くしており、バッシュとの戦闘でナイが最初に疾風のダンから盗み出した「隠密」を利用した戦法も知っている。
ダンが使用した暗殺術は初見ならば大抵の相手は反応できず、成す術もなく破れただろう。バッシュの場合は運よく防魔の盾で攻撃を防ぐ事は出来たが、仮に盾がなければナイの最初の攻撃で彼は敗れていた可能性もある。しかし、既にその戦法を知っているならば話は別だった。
リンダはナイが距離を置いたのは「跳躍」の技能で一瞬で移動し、自分の懐に潜り込むため、そして攻撃の寸前で「隠密」を発動させて存在感を限りなく消し去り、自分が見失っている間にナイは不意を突いて攻撃を仕掛けるつもりだと判断した。
(残念ですが、その戦法は私には通じません)
ナイが仕掛ける前にリンダは防御の専念するために両腕を交差させる。ボクシングのクロスアームブロックと似ており、防御に専念すれば最初の不意打ちでもリンダはどんな攻撃に耐えれる自信は合った。
(お嬢様の話、それと先ほど巨人族を抑えつけた腕力……恐らく、単純な筋力は私をも上回るのでしょう。しかし、技量ならば私の方が上です)
純粋な腕力は恐らくは剛力の技能も扱えるナイの方がリンダを上回るが、リンダは技量ならば自分の方が上だと判断し、防御に専念する。最初の一撃を耐え切れば即座に彼女は反撃に転じ、ナイを仕留められる自信はある。
「それでは試合を開始致しますわ!!どちらも準備はよろしいですわね?」
「いつでもどうぞ」
「はい、問題ありません」
「それでは……試合開始!!」
ドリスは二人の了承を得ると試合開始の合図を行い、真っ先に動きだしたのはナイの方だった。リンダの予想通り、ナイは「隠密」の技能を発動させ、最初に存在感を消し去る。他の人間から見れば彼の姿が唐突に半透明になったように見えただろう。
予想通りに最初にナイが隠密を発動して存在感を消し去り、自分に近付こうとしている事に気付いたリンダは防御を固める。案の定というべきか、ナイは跳躍の技能を発動させてリンダに正面から近付いてきた。
(やはりそう来ましたか……しかし、この一撃に耐えれば!!)
リンダは接近するナイに対して両腕に意識を集中させ、彼の攻撃を耐えようとした。だが、そんなリンダに対してナイは彼女の目前にまで近づいた瞬間、拳を開いてリンダの両腕を掴む。
「なっ!?」
「はああっ!!」
両腕を交差して防御の体勢に入っていたリンダはナイの予想外の行動に反応できず、その間にナイはリンダの腕を掴むと力ずくで引き寄せる。彼女は咄嗟に腕を振りほどこうとしたが、まるで万力のように締め付けるナイの腕に抗う事が出来ない。
力ずくでリンダはナイに引き寄せられると、そのままナイは闘技台の下に目掛けて彼女の身体を投げ飛ばそうとした。
「せりゃあっ!!」
「くぅっ!?」
「お、落ちるぞ!!」
「やった!!ナイ君の勝ちだ!!」
「いや……まだだよ!!」
ナイの腕力で投げ飛ばされたリンダは闘技台の下に落下すると思われたが、彼女は両手を伸ばすとどうにか闘技台の端を掴み、ぎりぎりで落下を免れる。彼女は両腕に血管が浮き上がる程に力を込めると、逆立ちの状態で闘技台の端に留まり、即座に体勢を立て直す。
「はあっ……さ、流石に今のは危なかったですね」
「ええっ……落としたと思ったのに」
「リンダ、油断してはいけませんわ!!その方はガーゴイルやミノタウロスを倒した猛者ですのよ!!」
どうにか闘技台に踏み止まったリンダに今度はナイの方が驚かされ、普通の格闘家ならば成す術もなく先ほどの攻撃で闘技台に落ちていただろう。だが、ナイが相手をしているのは超一流の格闘家であり、今度はリンダの方が仕掛ける。
「跳躍ならば私も出来ますよ!!」
「うわっ!?」
今度はリンダの方が跳躍の技能を発動させ、一瞬にしてナイの元へ近づく。距離を詰められたナイは焦った声を上げ、そんな彼にリンダは掌底を繰り出す。
先ほどの試合でナイはリンダの掌底をまともに受ければまずいと判断し、咄嗟に後ろに身をかわす。その判断は間違っておらず、リンダが伸びきった腕から衝撃波が放たれ、軽い振動が闘技台走る。
(危なっ……あれをまともに受けたらまずい!!)
リンダの発勁は衝撃波を相手の体内に撃ち込む技であり、もしも触れれば巨人族の頑強な肉体さえも破壊する一撃を誇る。ナイの場合は一撃でも受ければ無事では済まず、どうにか距離を取ろうとするがリンダは逃さない。
「くっ……」
「逃がしませんよ!!」
「うわっ!?」
跳躍を利用して距離を取ろうとしてもリンダも同じように跳躍を発動させ、攻撃を仕掛けてくる。逃げようにも相手と距離が話せなければ意味はなく、ナイは追い詰められる。
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