第268話 長所を生かせ
(この人も跳躍を使えるのか……これじゃあ、逃げ切れない)
ナイは跳躍を発動させて逃げようとしてもリンダも跳躍を利用して距離を詰め、攻撃を仕掛ける。二人は闘技台の上を飛び回り、普通の人間からすれば二人の動きが捉え切れず、何が起きているのか理解できない。
闘技台の上に二人が跳躍で足を踏み鳴らす音が鳴り響き、その様子をナイの仲間達は心配そうに見つめる。戦況はナイが不利であり、このままではリンダに追いつかれて攻撃を受けるのは明白だった。
「せいりゃあっ!!」
「ぐうっ!?」
「ナイ君!?」
「そんな、やられたの!?」
遂にリンダが繰り出した拳がナイに的中し、彼の身体が後方へと吹き飛ぶ。その様子を見てヒナとモモが声を上げるが、ナイは闘技台に落ちる寸前にどうにか踏み止まる。
「いててっ……」
「ナイ、大丈夫?」
「まだ戦えますか!?」
「大丈夫……かなり痛いけど、戦える」
ミイナとヒイロが声を掛けるとナイは打たれた箇所に視線を向け、赤く腫れている事に気付く。少し腕が痺れたが骨には影響はなく、改めてナイはリンダと向き合う。
「はっ……はっ……まだやりますか?」
「問題ありません……」
「では……行きます!!」
息切れを起こしながらもリンダはナイの元に駆けつけ、距離を詰めようとした。この時にナイはまた跳躍の技能を発動させようとしたが、ここで疑問を抱く。
(さっきの攻撃……まさか?)
ナイは先ほどリンダに打ちぬかれた箇所に視線を向け、そして今のリンダの状態を確認し、ある事に気付く。どうして彼女は発勁を撃ち込まず、打撃でナイを闘技台の下へ落とそうとしたのか。
これまでの戦闘を思い返し、そして現在のリンダの様子を確認したナイはある推測を立てる。迫りくる彼女に対してナイは逃げもせずに両腕を交差させて防御の体勢を整えた。
「来いっ!!」
「ナイ君!?」
「何をっ……!?」
逃げもせずに防御の体勢でリンダを待ち構えるナイに対して他の者達は声を上げるが、そんな彼に対してリンダは掌底を繰り出し、今度こそ発勁を発動させた。
「せいりゃあっ!!」
「がはぁっ……!?」
掌底がナイの両腕に目掛けて放たれ、あまりの威力にナイの身体が後方へと吹き飛び、闘技台の下に叩き落される。それを確認したリンダは勝利を確信したが、地面に落とされたナイは身体が震えながらも起き上がる。
「くぅっ……!!」
「ナイ!?無事なのかい!?」
「あの一撃を受けて……!?」
テンとバッシュはナイが起き上がろうとする姿に驚き、間違いなくリンダの発勁を彼はまともに喰らった。それにも関わらずにナイは起き上がると、身体を確認してまだ動ける事を把握し、笑みを浮かべた。
ナイが立ち上がる姿を見ていた闘技台の上に立つリンダは、呆然とした表情で全身から汗を流して明らかに様子がおかしかった。すぐにドリスはリンダを見て顔色を変える。
「リンダ、まさか貴女……!?」
「はあっ、はあっ……お嬢様、大丈夫です。私はまだ……」
「やっぱり……さっきの技、体力をかなり使うみたいですね」
リンダの様子を見てナイは掌底を受けた腕に視線を向け、先ほどリンダに挑んだ巨人族のボウは足首を破壊されたが、今回のナイは派手に吹き飛んだように見えたが腕に痣が出来た程度で骨に罅すらも入っていない。
直接に掌底を受けた方の腕は痺れてしばらくは動けそうにないが、ナイは闘技台へ自力で戻ると、改めてリンダと向き合う。彼女は構えを取るが、明らかに疲労困憊の状態だった。
――リンダが使用する「発勁」は強力ではあるが、本来はそれほど多用する技ではない。発勁を繰り出すには大地をしっかりと踏みしめた状態で打ちこむ必要があり、しかもかなりの体力を消耗する。
最初に巨人族のボウとの試合の際はリンダは彼から仕掛けるのを待ち、万全な状態で発勁で反撃を繰り出した。しかし、ナイとの試合では彼女は幾度も跳躍の技能を発動させ、闘技台の上を移動し続けた。そのせいで彼女は予想以上に体力を消耗していた。
技能は便利な能力ではあるが、使用する度に体力を消耗する。ましてや跳躍などの移動系の技能ほど体力を削りやすく、しかもナイと比べてもリンダの跳躍は性能が落ちる。
同じ技能を覚えているとしても人によっては性能が異なり、しかもナイの場合は常日頃から使用している技能である。山育ちのナイは跳躍の技能を毎日のように扱い、実を言えば覚えている技能の中でも剛力の次に使用回数が多い。技能は使用すればするほどに精度が上がり、体力の消耗も抑えられる。
リンダの場合は跳躍の技能はナイよりも先に覚えてはいるが、彼女の場合は跳躍の技能は単なる移動手段の一つで常日頃から使いこなしているわけではない。訓練の一端で使用する事はあっても、何度も連続で使用する機会などない。しかも彼女の場合は発勁の戦技のせいで余計に体力を消耗していた。
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