第261話 宴の席

「では中へどうぞ、会場は中庭で行われていますわ」

「中庭ね……雨とか降ってきたらどうするんだい?」

「安心して下さい、中庭は水晶石の天井で覆われているので日の光は通す事は合っても雨は通しませんわ」

「そいつは豪勢だね……」



ドリスの案内の元、ナイ達は屋敷の中へと招かれて中庭に通じる通路を移動する。この際にナイは屋敷の内装を見たが、バーリの屋敷と違ってドリスの屋敷は無駄に絵画や石像などは設置しておらず、その代わりに壁には紋様などが刻まれていた。


バーリの屋敷は正に成金趣味の人間が建てた感じで落ち着かなかったが、本物の貴族のドリスの屋敷は落ち着いており、気品を感じさせる構造だった。絵画などの類もあるが、バーリの屋敷で見かけた物は人物画が多かったのに対してドリスの屋敷は風景画が大半を占めていた。



「この絵が気になりますの?これは私の母が描いた物ですわ。昔、母が冒険者だった時に赴いた地方の絵らしいですわ」

「えっ!?これ、美術品じゃないんですか?」

「はあっ……こいつは見事だね」

「まるで風景の一部を切り取ったみたい……」



絵が美術品ではなく、ドリスの母親の描いた風景画と知ってナイ達は驚きを隠せず、それほどまでに見事な出来栄えだった。ドリスの母親は冒険者というのも驚きだが、どうやら冒険者以外にも才能がある人物らしい。



「今回の祝宴会には残念ながら母は参加できませんけど、私のために絵を送ってくれるそうですわ。後でその絵の方は宴の最後の席で見れますのでお楽しみください」

「なるほど、相変わらずあんたの母親は貴族らしくないね。また何処かに旅に出ているのかい?」

「それが母の性分なのですから仕方ありませんわ」



ドリスの母親とはテンも顔見知りらしく、二人の会話によるとドリスの母親は貴族でありながらよく旅をしているらしい。どんな人物なのかナイは気になったが、話し込んでいる間に中庭へと辿り着く。


扉を開くと既に中庭には大勢の人間が集まっており、並べられた机には古今東西の料理が用意されていた。その人の数は少なくとも100人は超え、中には人間以外の種族も多数存在した。



「凄い、こんなに人がいるなんて……」

「あれ、でも……普段着の方も多いですね」

「言われてみれば……半分近くが普通の服で来ている」

「武装している奴等もちらほらと見えるね」



集まった客の半分は意外な事にナイのように普段着のままでしかも武装していた。正装している客は殆どが貴族だと思われるが、思っていた以上に普通の格好で参加している者が多い。


この時にナイは参加している人間達に視線を向け、ある事に気付く。それは彼等の殆どが冒険者のバッジを身に付けており、中には傭兵と思われる風貌の人物も多数見かけた。


貴族でしかも公爵家の令嬢の祝宴会なのになんだか場違いな雰囲気を纏う客達を見てナイは戸惑うが、客の中には見覚えのある顔もあった。



「ん?そこにいるのは……お前達か」

「バッシュ王子!?」

「なっ……王子も参加されていたのですか?」

「当たり前だ。仮にも私の騎士団の副団長の誕生日だぞ、ならば上司として参加しないわけにはいくまい」




宴の席にはバッシュの姿もあり、彼の傍には黒狼騎士団に所属する騎士達も並んでいた。彼等はどうやらバッシュの護衛として随行したらしく、ドリスはそんな彼に頭を下げる。



「本日は王子様もお越し下さり、誠にありがとうございます」

「気遣いは不要だ、それよりもやはり彼を呼んだのか」

「え、あの……」



バッシュに視線を向けられたナイは戸惑うと、その様子を見てバッシュはドリスに顔を向けて尋ねる。



「何だ、まだ説明していなかったのか」

「ええ、これから皆様に説明する予定でしたわ」

「おい、それはどういう意味だい?」

「……今回の祝宴会の催し物、それはここに集まって貰った方々にも協力して貰いますの」



ドリスは中庭を振り返り、武装した人間達に視線を向ける。彼等の殆どが冒険者や傭兵であり、しかも只者ではない雰囲気を纏っていた。その様子を見てナイ達はこれから何を仕出かすつもりなのかと思ったが、ここでヒイロが何かを発見したように指差す。



「あ、あれを見てください!!中庭の中央に……闘技台がありますよ!?」

「闘技台?」



ヒイロの言葉に視線を向けると、ナイ達は彼女の言う通りに何故か中庭の中心には石畳製の闘技台が設置されていた。中庭の中央を陣取る闘技台にナイ達は戸惑うが、その反応を見てドリスは扇子を取り出し、口元を覆い隠しながら説明を行う。



「そう、今回の祝宴会の催し物……それは我が公爵家が誇る最強の親衛隊と招待客の皆様で試合を行って貰いますわ!!」

「し、親衛隊?」

「試合……?」



ドリスの突拍子もない言葉にナイ達は唖然とするが、彼女が指を鳴らすと給仕を行っていたメイドたちが即座に目つきを変え、闘技台の方へと移動を行う。

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