第262話 フレア公爵家の親衛隊

メイドたちは身軽な動作で闘技台の上に移動すると、中庭に集まっていた招待客はどよめき、そしてドリスも闘技台へと向かう。彼女が闘技台へ移動すると、メイドたちはその場に跪き、それを見て頷いたドリスは招待客へと振り返って告げる。



「皆様、本日は私の誕生日のために集まり下さり、誠にありがとうございます。それでは今年も例年通りに我がフレア公爵家が誇る親衛隊に挑む勇気ある御方を募集しましょう」

『おおっ!!』



ドリスの言葉に武装して参加していた客達が騒ぎ出し、その反応を見てテンは何かを思い出したように腕を組む。



「そうか、そういえばそんな催し物があったね」

「テンさん?何か知ってるですか?」

「ああ、フレア公爵家は代々の家系だからね。歴代の公爵家の先祖の中には将軍や騎士に就いた人間もダントツに多い。そして現在の当主は歴代の当主の中でも武闘派として有名な人なんだよ」

「武闘派?」



フレア公爵家が武家として有名な事はナイも初めて知り、歴代の公爵家の人間の中にはドリスのような王国騎士や、将軍職に就いた人間も多い。しかし、その中でも現在の当主、つまりはドリスの父親は武闘派として名高い人物らしい。


今の所はまだ姿を見せていないが、ドリスの父親は武闘派でテンも若い頃は世話になった人物らしく、彼の意向で公爵家の人間の誕生日を迎えた際、ある催し物を開くように義務付けているという。



「公爵はちょっと変わっていてね……家族の誰かが誕生日を迎える時は必ず貴族以外の人間を呼び出すんだ。その殆どが高階級の冒険者や、腕利きの傭兵、他にも武人として有名な人間に片っ端から招待状を送り込むのさ。私も毎年贈りつけられてきたね……」

「ドリスの父、ドン公爵はアッシュ公爵と並ぶ武闘派の人間として有名だ。二人とも公爵家の当主ではあるが、現役の将軍でもある」



テンの説明にバッシュも加わり、彼はこの場に呼び出された冒険者と傭兵はドリスの誕生日を祝うというよりは今回の催し物のために用意された賞品が狙いである事を説明してくれた。



「基本的にここに集まった者の狙いは催し物に参加し、その賞品をいただくためだろう。実際に公爵家とは無縁の人間も多く参加している。彼等の狙いは公爵家が用意した貴重で価値のある品物を狙ってきたんだろう」

「催し物って……それに賞品?どういう意味なんですか?」

「あれを見ろ」



バッシュの言葉の意味が分からずにナイ達は混乱していると、バッシュは闘技台の近くに置かれている台座を指差す。そこには宝石や金の塊が並べられ、他にも美しく研ぎ澄まされた武器や防具、更に魔術師が扱う杖や魔石の類も用意されていた。


どれもこれも素人でもみただけで分かる一級品の品物ばかりであり、今回集まった一般客の狙いはあの品物である事をバッシュは説明する。



「これから行われる催し物に参加し、見事にやり遂げた人間はあそこに並べられている賞品を受け取る権利を与えられる。どれもこれも非常に価値のある品物だ。これだけの品物を用意するだけでもフレア公爵家がどれほどの力を持っているのか伺い知れるな」

「あの、賞品というのはどういう意味ですか?」

「……今から説明が行われる。よく聞いておけ」



ナイはバッシュの言葉にドリスの方を振り返ると、彼女の傍で膝を着いていたメイドたちが突如として武器を取り出し、それを見た招待客たちに緊張が走る。そしてドリスは闘技台から下りると、彼女達を指差す。



「ここにいる彼女達は私の屋敷に仕える使用人であり、それと同時に我が公爵家が誇る最強の親衛隊、つまりはフレア公爵家の守護者といっても過言ではありません!!今回の催し物は彼女達に勝利した方はあそこに並べている賞品をお持ち帰りくださっても構いません!!」

『うおおおおっ!!』



ドリスの言葉に招待されていた冒険者や傭兵は湧き立ち、その様子を見てナイ達も驚き戸惑う。まさか使用人を戦わせる貴族など聞いた事もなく、しかも彼女達が相手をするのはこの王都でも一流の武人達である。


普通に考えればただの使用人に一流の冒険者や傭兵の相手など勤まるはずがない。しかし、先ほどまで給仕を行っていた時は気づかなかったが、武装した途端にメイドたちの雰囲気が一変し、誰一人として只者ではない雰囲気を纏う。



「それでは皆様、本日の主演を開始しましょう!!それでは最初に彼女達に挑む勇気のある方はおられますか?」

「よし、俺がやるぞ!!」



ドリスの言葉に真っ先に反応したのは巨人族の男性であり、どうやら傭兵らしく冒険者のバッジは身に付けていないが、明らかに只者ではない雰囲気を纏っていた。

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