閑話 〈ゴマンの盾〉

――時は数年前に遡り、まだナイがホブゴブリンを撃退してから間もない頃、彼が暮らす村の村長の息子であるゴマンは父親か叱りつけられた。



「こりゃっ!!この馬鹿息子が!!また勝手にあの盾を外に持って行きおったな!?」

「あいたぁっ!?な、何すんだよ……」



ゴマンは父親に急に殴りつけられて涙目を浮かべるが、その彼の背中には円盤型の盾を背負っており、それを見た村長は彼から無理やりに引き剥がす。



「この馬鹿たれ!!この盾がどれほど大切な物なのか分かっておるのか!?」

「ふんだ!!そんな古臭くて格好悪い盾が何なんだよ!?」

「な、何だと!?この馬鹿息子め、この盾がどれほど凄い物なのか分かってるのか!?この盾はな、我が先祖のゴルド様がこの国の騎士だった事を証明する代物なんだぞ!!」

「嘘を吐くなよ!!だったらなんでその盾の名前も伝わってないんだよ!?」

「むっ、それはな……理由は知らんが、この盾を持ち帰ったゴルド様は頑なに盾の名前だけは伝えようとしなかったんだ」



村長はゴマンの反論に対して焦った声を上げ、何故か彼等の家系に伝わるこちらの盾は名前だけが伝わっていない。但し、この盾は大昔にこの国の王様に渡された由緒正しい盾とだけは伝わっている。


ゴマンは小さい頃からこの盾を時々勝手に持ち出し、遊びに利用している。主に丘の上から盾の上に乗って滑り落ちるのに利用するが、不思議な事にこの盾は滑っている最中によく。だからこそゴマンはこの盾を遊び道具によく利用していた。



「はんっ、何が騎士の家系だ!!それならどうして僕達の家はこんなに貧乏なんだよ!?いつもナイの爺さんに肉を取ってきてもらうぐらいなのに!!」

「やかましい!!貧乏なのは認めるが、それは別に先祖のせいではない!!お前の食費が掛かるからうちは貧乏なんじゃ!!」

「僕だけのせいだっていうのかよ!?もういいよ、ナイの見舞いに行ってくる!!」

「あ、こら!!まだ話は……って、早いっ!?」



肥満体ではあるがゴマンの足は素早く、説教を行ってもいつも途中で逃げ出してしまう。残された村長はため息を吐きながら盾に視線を向け、頭を掻く。



「全く……本当にこの盾は凄い代物、のはずなんだがな」



実を言えば村長も家宝の盾の事に関してはあまり知らず、かつて「王国騎士」であったゴルドという名前の先祖が国王から直々に授かった代物としか聞いていない。盾の性能やどうして名前が残されていないのかは彼も知らない。


しかし、この盾の持ち主はある時に国元を離れてこの場所に赴き、村を作り出した。だから彼の子孫は代々村長を務めている。どうしてゴルドが騎士が位を捨ててまでこの村を作ったのか、その理由だけは伝わっている。



(まさかこの地方に暮らす女子に惚れ、身分を捨てて平民になってまでその女子と結婚して村を興した……なんて言えるはずがないからな)



ゴルドは騎士の位を捨てた理由、それは彼がこの辺境の地に暮らす一人の女性に惚れ込み、彼女と結婚するために身分を捨てたのが真実だった。


元々はゴルドは平民だったが、戦で功績を上げて一兵士から王国騎士にまで昇格し、国王も彼に爵位も領地も与えた。だが、当時は貴族と平民は結婚出来ない制度があったため、彼は手に入れた身分も領地も全て捨ててこの地方に暮らす若い娘と結婚を果たす。


娘と結婚した後はゴルドは村を作り上げ、そこで余生を過ごす。何度か国から使者を派遣されて騎士に戻るつもりはないかと問われたが、自分の身勝手な理由で国を捨てた事にゴルドは引け目を感じ、結局は平民として生涯を過ごす。






――但し、彼は王都を去る際に自分が騎士である証だった盾だけは持ち帰ったが、この盾の真の価値を知られれば良からぬ輩に狙われる事を考慮し、敢えて盾の名前も子孫に伝える事はなかった。


彼が築き上げた村は辺境の地に存在し、他の村や街ともほとんど交流がなかったため、村の人間はゴルドが騎士である事や彼の盾が魔道具である事も知らず、結局は先祖は誰にも盾の秘密を明かさずに死を迎える。


現在ではゴマンの家系に伝わる盾の秘密を知る者はおらず、子孫ですらも本当に自分達の先祖が騎士なのかを疑っていた。しかし、彼等の家系に残された盾が実は途轍もない力を秘めている事が判明したのはそれから間もなくの事だった。

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