第220話 王城
――ナイが意識を取り戻すと、自分がベッドに横たわっている事に気付く。最初は自分の身に何が起きたのか理解するのに時間が掛かったが、すぐに意識を失う前の出来事を思い出し、驚いた様子でナイは身体を起き上げる。
「ここはっ……あいてっ!?」
「ん?もう起きたのか。もっと目を覚ますのに時間が掛かると思ったが……」
「えっ……?」
聞きなれない男性の声が聞こえてナイは振り返ると、そこには眼鏡を掛けた男性が立っており、年齢の方は20代後半ぐらいだと思われた。白衣を纏っているのでナイは最初は医者かと思ったが、その男性の白衣にはこの国の紋章が刻まれていた。
医者と思われる男性はナイの元に近付き、彼の額に手を押し付けて熱を測る。その後は彼の顔に手を伸ばし、瞼を無理やりに開かせて確認すると、頷いて手を離す。
「特に問題はなさそうだな。ほら、これを飲め。薬草を煎じたお茶だ、こいつを飲めば身体もすぐに楽になるだろう」
「あ、どうも……ぶふっ!?」
「言い忘れていたがめちゃくちゃ苦いぞ。でも、ちゃんと全部飲まないと効果はないからな」
差し出されたお茶をナイは口に含んだ瞬間、途轍もない苦味が襲い掛かり、ナイは激しく咳き込む。そんな彼を見ながら男性は腕を組みながらナイに語り掛ける。
「それにしてもお前、いったい何者だ?どんな生活を過ごせばそんな身体に育つんだ」
「えっ……?」
「お前が寝ている間に身体を調べさせてもらったが、明らかに筋肉の質が普通の人間とは異なる。獣人族の筋肉質に近い……その割にはレベルがまさかの1だとはな」
「っ……!?」
ナイは男性の言葉を聞いて目を見開き、いつの間にか自分のレベルまでも調べられている事に戸惑う。その様子を見て男性は頭を掻きながら自己紹介を行う。
「ああ、そういえば言い忘れていたが俺の名前はイシだ。この城に勤務する医者だ」
「えっ……城?」
「ここは王城にある医療室だ。普通の人間だったらこんな場所に立ち寄れないんだがな……休暇中なのに無理やり呼び出されてお前の手当てを任されたんだよ」
イシと名乗る男性はパイプを取り出し、それを口に含む。医者でありながら患者の前でパイプを吸い出すなどかなりの問題行為に思えるが、それよりもナイとしては自分が現在は王都の王城の中に居る事に驚く。
「ここ、あの王城の中なんですか!?」
「そういう事だ。今朝、急にテンの奴にあんたを診てくれと無理やり連れ出されたんだよ」
「テンさんに……?」
「お前、テンとどういう関係だ?」
「関係と言われても……」
ナイとテンの関係は宿屋の主人と宿泊客でしかなく、特に親しい間柄というわけでもない。一応は彼女が妹(娘?)のように可愛がっているミイナを通して知り合ったが、そんな彼女がどうしてわざわざ自分のために王城に勤務するような医者を呼び出したのかは分からない。
そもそもナイはどうして自分が王城にいるのかも分からず、状況を理解できていなかった。そんな彼の様子を察してイシはパイプを口から離し、とりあえずはナイに身体を休める様に伝える。
「まあ、今は身体を休めていろ。その薬茶を飲めばすぐに筋肉痛も収まるはずだ。その後の事は……自分で何とかしてくれ」
「え、あの……」
「俺は帰らせてもらうぞ。休暇中だからな、それじゃあお大事に……」
「ええっ……」
イシはナイにそれだけを告げると本当に部屋から立ち去り、残されたナイは呆然としながら薬茶に視線を向けた。酷く苦いが、それでも薬ならば飲まなければならない。
「うえっ……不味い」
かなりひどい味だが一応は飲めなくもなく、我慢して一気にナイは飲み込むと、身体が熱くなる感覚に陥る。しばらくすると、本当に筋肉痛の痛みが治まり、一角兎の角で作り出す滋養強壮の効果がある薬よりも効果は高く、筋肉痛どころか身体の疲れも一気に吹き飛ぶ。
薬を飲んだだけで身体の痛みも疲労も消えた事にナイは驚き、先ほどのイシという人物が本当に有能な医者だと思い知る。だが、身体が回復してもナイは現在の状況が分からなければどうしようも出来ず、困り果てていると扉がノックも無しに開け放たれ、見知った顔が現れる。
「イシ、いるかい?あの坊主の治療はどうなってるんだい……なんだ、もう起きてたのかい」
「あ、テンさん……」
「その呼び方は止めな、私の事は女将と呼びな」
「ナイさん、大丈夫ですか!?」
「無事で良かった……」
姿を現したのはテンだけではなく、その後ろには騎士の制服に着替えたヒイロとミイナの姿もあった。3人はナイがベッドから起き上がる姿を見て安心し、彼の元へ向かう。
ナイもヒイロとミイナの無事な姿を見て安心するが、どうして自分が王城で治療を受けているのか気にかかり、テンに尋ねた。
「テンさん、さっきイシという人から聞いたんですけど……」
「ああ、イシの奴にはもう会ったんだね。あいつは何処に行ったんだい?」
「それが休暇中だから帰ると言って……」
「帰る!?たくっ、あの面倒くさがり屋め……面倒事に巻き込まれる前に逃げ出したね」
「えっ?」
「ナイさんがガーゴイル亜種を倒した後、色々とあったんです」
「本当に大変だった」
テンの言葉にナイは不思議に思うと、彼女の代わりにヒイロとミイナが彼がここに連れて来られるまでの経緯を話す――
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