魔法騎士編

第235話 魔物に追い掛け回される少年

――王城で反魔の盾を賭けてナイがバッシュと決闘を繰り広げてから数日後、彼は白猫亭の宿屋で過ごしていた。バーリの一件から彼は王国側から多大な報酬を受け取り、金銭面には余裕があった。


ナイはこの数日の間、王都を観光もせずに外に赴く機会が多く、草原の近くに現れる魔物を相手に戦っていた。先日のバーリの屋敷の一件や、バッシュとの決闘の際にナイは力不足を感じ、改めて魔物との戦闘を通して最近は使用する機会がなかった技能を磨く。



「フゴッ、フゴォッ……!!」

「グルルルッ……!!」

「ビャク、下がってて……手を出したら駄目だぞ」



王都から離れた草原にてナイはボアを発見し、同行していたビャクは威嚇を行うが、それをナイは手で制す。その一方でボアの方もナイ達を敵だと定め、鼻息を鳴らしながらも突進を仕掛けてきた。



「フゴォオオオッ!!」

「ふうっ……」



ビャクを下がらせるとナイは旋斧を構え、正面から突進してくるボアに対して刃を構える。相手が距離を詰めてきてもナイは防御も回避も行わず、旋斧を上段に構えた。



(――ここだ!!)



ボアが眼前にまで迫った瞬間、ナイは目を見開いて旋斧を振り下ろす。その結果、派手な血飛沫と共にボアの巨体が左右に切り裂かれ、地面に倒れ込む。



「アガァッ……!?」

「ふうっ……やっと勘を取り戻したかな」

「ウォンッ!!」



見事に「迎撃」の技能を発動させ、敵を倒す事に成功したナイは額の汗を拭う。迎撃の技能は敵対する相手の方から攻撃を仕掛けてこない限りは発動出来ず、最近では使う機会が殆どなかった。


技能は身に付けたとしても使用する機会がなければ使い方を忘れる事もあり、最近のナイは迎撃を扱うような事態に陥る事は殆どなかったため、先日の戦闘でも使う暇はなかった。だが、この迎撃の技能は本来はナイが覚えている技能の中で最も強力な技能である。


子供の頃の内でさえも迎撃を覚えてから魔物と戦える力を身に付け、いつも重要な場面では必ず役立って来た。だが、ナイが力を身に付けるにつけて扱う機会が減り、この半年の旅路の間でも戦闘に使用した回数は片手で数える程しかない。



(剛力と違って迎撃は任意で発動できないのが問題なんだよな……)



迎撃を使い忘れる事が多いのはナイ一人では迎撃を発動する事が出来ないという理由が大きく、発動するにしても自分の命を狙う相手を用意しないといけない。そういう意味では一角兎などの力が弱くても気性が荒く、躊躇なく襲い掛かる魔物が相手の方が都合がいい。


だが、生憎と王都の近辺には一角兎は生息しておらず、仕方なくナイは一角兎の代わりに攻撃が読みやすく、ビャクも恐れずに襲い掛かる魔物であるボアを練習相手に利用する。


ちなみに外に出向く時にビャクを連れているのは移動手段が彼の足を頼りにしているからであり、最近は魔物の数が増えてきている事から普通の馬ではなく、魔獣を同行させる旅人や行商人も増えているらしい。



「ビャク、そろそろ帰ろうか……って、ボアの肉に夢中だね」

「ガツガツッ……」



ナイが倒したボアにビャクは嚙り付き、夢中に食事を味わっていた。その様子を見てナイはビャクの餌代も浮くので彼の好きなようにさせていると、食事の際中にビャクは何か聞こえたのか耳を動かす。



「ウォンッ!?」

「ビャク、どうした?」

「クゥ〜ンッ」



ビャクはある方向に顔を向け、その様子を見てナイはビャクの視線の先に顔を向ける。この際に観察眼の技能を発動させると、遠くの方で誰かが追いかけられている事に気付く。



「ひいいっ!?だ、誰か助けてくれぇっ!!」

「ギィイイッ!!」

「ガアアッ!!」



魔物に追いかけられているのは眼鏡を掛けた黒髪の少年であり、彼を追いかけているのはファングに乗り込んだゴブリンだった。かつてイチノの街を襲ったゴブリンと同様に魔獣を従えたゴブリンが現れた事にナイは驚く。


少年の後を追いかける魔物の数はかなり多く、いったい何をやらかしたのか相当に怒っている様子だった。しかもファングに乗り込んだゴブリンの中には年老いた個体が存在し、そのゴブリンの右手には信じられない物が握りしめられていた。



(あれは……まさか!?)



ファングに乗り込んでいた年老いたゴブリンを見てナイはすぐに正体に気付き、かつてイチノの街に魔物の大群を引き連れて襲い掛かった「ゴブリンメイジ」と呼ばれる存在だと気付く。


ゴブリンメイジは通常種のゴブリンに近い姿だが、知能はホブゴブリンよりも高く、人語を話す事も出来る。そして彼等は魔法を扱える力を持ち、コボルトに乗り込んだゴブリンメイジは赤色の水晶玉を取り付けた杖を構えて魔法を放つ。

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