第234話 本当に命拾いしたのは誰か?

――身体を酷使したナイはヒイロとミイナに肩を貸して貰い、城内に存在する医療室と呼ばれる部屋に運び込まれる。今朝までナイが眠っていた部屋であり、身体が回復するまでそこで休ませてもらう事になった。


二人に運び込まれるナイを見てテン達は黙って見送り、バッシュの方は場外に落ちた時に背中を痛めたが、特に怪我らしい怪我はしていなかった。そんな彼に対してテンはナイの事を尋ねる。



「バッシュ王子、あの坊主の事はどう思います?本当のあの盾を使いこなせる力量があると思ってるんですか?」

「……まさかあんな盾の使い方をするとは思わなかったが、彼なら大丈夫だろう」

「それにしてもまさか本当に王子様が負けるとは思いませんでしたわ」

「いや、王子様も手加減をされていたのだろう?自分から仕掛けようとしなかった辺り、彼の力を確かめたかったんでしょう」



ドリスはナイがまさかバッシュに勝つとは思わなかったが、リンはバッシュが手加減をしていたと判断する。仮にバッシュが本気でナイを殺すつもりならば防御だけに拘らず、攻撃に転じる事も出来たはずだった。



「王子もあの子供の事が気になっていたんでしょう。だから戦う前にあんな事を言って、あの子を本気にさせたかったのですね」

「……いや、私は本気で戦っていた。最初の内は彼の実力を計るために敢えて様子見をしていたがな」

「そんなご謙遜を……」

「いいや、違うね……あんたら、これを見てみな」



テンは会話の際中に落ちている防魔の盾を拾い上げ、それを見せつける。そんな彼女の行動にドリスとリンは不思議に思うが、防魔の盾の状態を見て彼女達は目を見開く。



「こ、これは……凹んでいる!?」

「馬鹿な……」

「多分、最後に攻撃を仕掛けた時にこうなったんだろうね」

「…………」



バッシュが装備していた防魔の盾は何時の間にか上の部分が若干凹んでおり、その様子を見てドリスとリンは衝撃の表情を浮かべた。バッシュの方も今更ながらに冷や汗を流し、あのテンでさえも動揺を隠せない。


この防魔の盾は衝撃を地面に受け流す性質を持ち合わせ、地面に付いた状態ならばどのような攻撃を受けても盾が壊れる事など有り得ない。しかし、最後にナイが旋斧を利用して大盾を攻撃した際、僅かに凹んでいた。



「巨人族の攻撃をも耐えると言われた防魔の盾を凹ませるなんて……」

「なら、あの子の力は……巨人族をも上回るというのか?馬鹿な、あり得ない。そんなの人間では……」

「どうやら命拾いしていたのは……王子様の方かもしれませんね」

「……かもしれんな」



仮にバッシュが装備していたのが防魔の盾ではなく、普通の鋼鉄の盾であれば最初のナイの攻撃で勝負は決まっていた可能性が高い。3人は若干凹んだ防魔の盾を見て改めてナイの底知れぬ力を思い知らされ、ため息を吐き出す。



「……こいつはとんでもない逸材を見つけたのかもしれないね」

「テン、あの少年はお前の元で世話になっていると言っていたな。ならあの子を手放さない様にしっかりと見張っていろ」

「えっ!?という事は王子……まさか彼を引き入れるつもりですの!?」

「…………」



バッシュの言葉にドリスは驚き、リンも黙り込む。しかし、テンはバッシュがそのような発言をする事は勘付いており、防魔の盾を凹ませる程の力を持つ人材を見逃すはずがない。



「何としてもあの少年を我が国に引き入れる……どんな手段を使おうともな」



王国の第一王子であるバッシュの言葉にドリスもリンも息を飲み、一方でテンの方はヒイロとミイナに連れられていくナイの後ろ姿を見て心の中でぼやく。



(あの坊主の剣……どこかで見た事があると思うんだけどね)



テンは何故かナイの所持している旋斧が気にかかり、かつて何処かで見た様な気がした。それが何時何処で見たのかは分からないが、何故かあの旋斧を見ていると不思議と胸がざわついた――






※短めですが、今日はここまでです。次回で王都編は終了です。

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