第233話 奇策
(――馬鹿なっ!?)
腕鉄鋼を反魔の盾を利用して吹き飛ばしたナイに対してバッシュは驚愕するが、即座に自分の元に目掛けて飛び込んできた腕鉄鋼に対して大盾を構える。この大盾はいかなる衝撃を受けようと地面に受け流すため、どんな攻撃でも防ぐ事が出来た。
衝撃波によって加速した腕鉄鋼はバッシュの元へ向かうが、彼は大盾を構えて腕鉄鋼を防ぐ事に成功した。腕鉄鋼は大盾の上の部分に衝突したが、衝突の際に発生した衝撃は瞬時に地面に流れ込む。
(こんな奇策で私に勝てると思って……何っ!?)
しかし、バッシュが腕鉄鋼に気を取られている隙にナイは既に彼の目前にまで迫っており、あろう事か旋斧を手放した状態で駆けつけていた。
武器も防具も放置した状態で自分の元に駆けつけてきたナイにバッシュは動揺するが、即座に彼はナイを仕留めるのならば今しかないと判断し、槍を繰り出そうとする。
「愚かなっ!!」
「っ……!!」
自ら距離を詰めてきたナイに対してバッシュは槍を繰り出そうとした瞬間、ナイは彼が所持している大盾に手を伸ばす。この際にバッシュは槍を突き出そうとしたためにナイに大盾を当てて体勢を崩す事が出来ず、大盾を掴まれてしまう。
(何のつもりだ!?)
自分の大盾を掴んだナイを見てバッシュは戸惑い、そんな事をしても自分の槍がナイを貫く事に変わりはない。しかし、その一瞬の動揺がナイの反撃の好機となり、彼は剛力を発動させると、大盾を掴んで力ずくで引き寄せる。
「うおおおおっ!?」
「っ……!?」
「お、王子!?」
「嘘!?」
「ぶん回した!?」
大盾を腕に装着した状態のバッシュに対してナイは力ずくで引き寄せると、そのまま彼の身体を振り回す。いくら大盾が外部からの衝撃に強いと言っても、その大盾その物を持ち上げられ、振り回されたらバッシュでは対抗できない。
彼の力では剛力を発動させたナイには及ばず、更にこの時のナイはガーゴイル亜種を倒した時のように聖属性の魔力を利用して全身の筋力を強化させ、渾身の力で振り回す。
「このぉおおおっ!!」
「おぉおおおっ!?」
『王子!?』
腕に装着していた防魔の盾が遂に力ずくで引き剥がされると、バッシュの身体は闘技台の場外まで吹き飛ばされ、彼は地面に倒れ込む。その様子を見ていた他の者達は呆気に取られるが、勝負はまだ終わっていない。
ナイは倒れたバッシュの元へ向けて駆け出し、この際に彼が装備していた防魔の盾を構える。それを見たバッシュは背中を地面に強打しながらも、どうにか槍を突き出す。
「こ、このっ……!!」
「無駄です!!」
防魔の盾を利用してナイは繰り出された槍を大盾で防ぐと、反魔の盾と同様に弾かれてしまう。だが、倒れ込んだバッシュに近付く事にナイは成功すると、彼は拳を振りかざす。
「うおおおっ!!」
「っ……!?」
「まずい、誰か止めなっ!!」
「くっ!?」
「ナイさん、駄目です!!」
全力の力で拳を叩きつけようとするナイを見て慌てて他の者達は止めようとしたが、直後に地面に衝撃が走り、バッシュの頭部の横にナイの拳がめり込む。
あまりの威力に拳どころか腕まで地面の中にめり込み、その様子を間近で見ていたバッシュは顔色を青くさせ、その一方でナイはバッシュを押し倒した状態で告げる。
「まだ、やりますか?」
「くっ……!!」
「そこまでだ!!君の力は十分に見せて貰った!!」
「これ以上の戦いは無意味ですわ!!」
ナイの言葉にバッシュは歯を食いしばり、すぐにリンとドリスがナイの元へ駆けつけると、彼をバッシュから引き剥がす。しかし、この際にナイは地面に座り込み、一気に力が抜ける様に倒れ込む。
「はあっ……きっつい」
「ナイさん!?大丈夫ですか!?」
「何処か怪我をした?」
すぐにナイの元にヒイロとミイナが駆けつけ、慌てて肩を貸す。だが、ナイ自身には大きな損傷はなく、倒れた原因は先ほど聖属性の魔力を使用して全身の筋力を強化した反動である。
強化薬を使用した後と同じく、現在のナイは全身が筋肉痛に襲われていた。無理やりに聖属性の魔力で筋力を一時的に強化した反動でナイはまともに動けず、回復するのに時間が掛かる。それでも魔操術を利用すれば再生機能を強化する事で肉体の疲労や痛みはすぐに回復できるのが幸いだった。
「王子様……僕の力、認めてくれますか?」
「……ああ、いいだろう。私の負けだ」
「やったぁっ!!」
「あの王子に勝つなんて……あんた、本当に大した奴だね」
ナイの言葉を聞いてバッシュはリンとドリスに手を貸して貰い立ち上がりながら頷く。まさかナイがあのような行動に取るとは思わず、彼はため息を吐きながらもナイに手を差し出す。
「いい勝負だった……君と戦えてよかったよ」
「あ、はい……僕もです」
「……今後、反魔の盾の管理は君に任せよう」
「ナイ、これ持って来た」
バッシュはナイの力を認めると、ミイナが気を使って闘技台から旋斧と共に反魔の盾をナイの元へ持ち込む。それを見たナイは彼女の気遣いに有難く思い、、改めて反魔の盾を装備した――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます