第232話 培った技術を
(負けるもんか!!絶対に勝つんだ!!)
ナイは旋斧を構えると、バッシュに向けて今度はゆっくりと近づく。その様子を見て他の者達は固唾を飲む中、バッシュの方も油断せずにナイが接近するのを待つ。
(よし、ここだ!!)
十分に距離を詰めると、ナイはここで昨日の屋敷に「疾風のダン」という異名を持つ傭兵が使っていた剣技を試す。相手の視界に入っている状態でナイは「隠密」を発動させ、存在感を消す。この事で相手はナイの事をしっかりと見ていたはずなのに、まるでナイの身体が透明人間のように薄れていく感覚に陥る。
バッシュは唐突にナイの姿が半透明になったように感じられ、この際にナイは瞬時に跳躍を発動させて距離を縮める。バッシュは完全に意表を突かれ、ナイは今度は上段から旋斧を繰り出す。
「やああっ!!」
「ぐっ!?」
「王子様!?」
横薙ぎに振り払うのではなく、今度は上から振り下ろされたナイの旋斧は大盾の上部に衝突し、今度はバッシュも面を喰らった表情を浮かべる。だが、上からの攻撃でも大盾は衝撃を地面に受け流し、破壊には至らない。
(やっぱりこの盾は衝撃を受け流す力があるのか!!)
旋斧で大盾を攻撃した際の衝撃が地面に流れる事を再確認したナイは距離を取ると、それに対してバッシュは冷や汗を流す。先ほどのナイの攻撃は思っていた以上に彼の意表を突き、もしも大盾に攻撃されていなければバッシュは敗れていたかもしれない。
(何だ、この少年は……!?)
予想外の攻撃を繰り出したナイに対してバッシュは警戒心を高め、ここまでは防御に専念していたが、このままではまずいと判断した彼は槍を強く握りしめる。次にナイが近付いた瞬間、今度こそ確実に仕留めるために彼はこの国で最強の槍を構えた。
――バッシュが装備している槍は「撃竜槍」と呼ばれ、伝説の騎士ゴルドと双璧を為す「ゴウソウ」という名前の騎士が受け継いだ武器だった。この槍は竜のような強大な相手を倒すために作り出された武器であり、刃には特殊な仕掛けが施されている。
竜撃槍には風属性の魔石が嵌め込まれており、この魔石を利用して槍の刃は高速回転を行い、螺旋状の刃が高速回転して相手の肉体を抉り込む。この刃の回転力は凄まじく、災害の象徴とまで恐れられる竜種の頑丈な鱗さえも貫く事が出来ると伝えられている。
反魔の盾が王国最高の防具ならば竜撃槍は王国最強の槍といっても過言ではなく、これを使いこなせる人間はバッシュしか存在しない。そしてバッシュが装備している大盾も普通の防具ではない。
バッシュが所持している大盾は「防魔の盾」と呼ばれ、反魔の盾が作られた後に制作された魔道具である。その効果は外部からの衝撃を地面に受け流す力を持ち、巨人族のような怪力を誇る相手の攻撃でも上手く受ければ地面に衝撃を受け流して攻撃を無効化出来る力を持つ。
最強の槍とこの時代の最高の盾を装備したバッシュの実力は高く、王国騎士の中でも彼は三本指に入る実力者と言われている。そんな実力者を相手にナイは戦いを強いられており、どのように動けばバッシュを倒せるのかと考える。
(下手に近付けばあの槍の餌食となる。けど、こっちから攻撃を仕掛けようにもあの盾が邪魔をしてくる……どうすればいいんだ?)
ナイは必死にバッシュを倒す手段を考えるが、対抗策は簡単には思いつかない。先ほどの攻撃でバッシュも意表を突かれたせいで増々に警戒心を高めており、もう一度同じ攻撃を繰り出しても今度は通じないだろう。
(どうする、考えろ……考えるんだ)
自分の手持ちの武器を確認し、ここでナイは左腕に装着している腕鉄鋼に視線を向ける。それを見た途端、ナイはある方法を思いつき、一か八か賭けに出る事にした。
(ドルトンさん、壊れたらごめんなさい!!)
左腕に装着した反魔の盾をナイは取り外すと、旋斧の刃の部分に上手く括り付ける。そのナイの行動に他の者達は呆気に取られ、盾をわざわざ武器に取り付けるなどナイが何を考えているのか分からない。
「あの子、何をするつもりでしょうか?」
「さあな……だが、あの顔は何かを思いついた様に見えるな」
ドリスとリンはナイの行動の意図が読み取れないが、彼の顔を見て何か思いついた事だけは分かり、興味深そうに見つめる。その一方でバッシュの方もナイの行動を見て警戒したように大盾を構える。
旋斧に反魔の盾を括り付けたナイは今度は腕鉄鋼を取り外すと、まずはバッシュとの距離を測る。ドルトンから今後の旅に役立つように託された防具だが、背に腹は代えられず、ナイは腕鉄鋼を上空へ向けて投げた。
「うおおおっ!!」
「何をっ……!?」
空中に腕鉄鋼を投げつけたナイにバッシュは目を見開くが、直後にナイは旋斧を一回転させる勢いで振り回し、この際に空中から落下した腕鉄鋼に目掛けて刃を叩きつける。十分に加速した旋斧の刃に括り付けられた反魔の盾に衝突した瞬間、衝撃波と共に腕鉄鋼がバッシュに目掛けて放たれた。
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