第231話 負けられない戦い
(ゴマン……力を貸して)
ナイは今回は左腕に装着した反魔の盾に視線を向け、覚悟を決めた様にバッシュと向かい合う。それを見た他の者達は心配そうな表情を浮かべるが、止める事は出来ない。
闘技台にナイは上がると、試合ではないので審判役は存在せず、バッシュの宣告通りにナイの心の準備が出来ればいつでも戦闘は開始される。
「よし……行きます!!」
「来いっ……全力でな!!」
バッシュに対してナイは旋斧を構えると、まずは剛力と跳躍の技能を同時に発動させ、一気に距離を詰める。常人の目ではナイが瞬間移動のように近づいた様にしか見えない程の速度で距離を縮めると、ナイは全力の一撃を叩き込む
「やああっ!!」
「ふんっ!!」
ナイは右腕に掴んだ旋斧をバッシュの大盾に向けて全力で叩き込み、並の人間ならば巨岩をも破壊するナイの攻撃を受けたら盾で防ごうと吹き飛ばされただろう。だが、バッシュはナイの一撃を正面から受け止めた。
(なっ……!?)
自分の全力の一撃を大盾で受け止めたバッシュにナイは戸惑い、この時にバッシュに攻撃した際、ナイはまるで盾に衝撃が吸収されたような感覚に陥る。
ナイとしてはバッシュを吹き飛ばすつもりで放った一撃だったが、彼を吹き飛ばすどころか逆に大盾を繰り出されて体勢を崩してしまう。
「はあっ!!」
「うわっ!?」
「まずい、避けてください!?」
「危ない!!」
大盾で体勢を崩された所にバッシュは槍を振りかざし、それを見たヒイロとミイナが声を上げる。咄嗟にナイは左腕の反魔の盾を構え、槍を受け止めようとした。
(槍を上手く弾き返して体勢を崩せば……何だ!?)
しかし、この時にナイはバッシュが繰り出そうとする槍を見た時、違和感を覚える。それは槍の刃が通常の槍と違い、まるで螺旋を想像させる捻じれが刻まれている事に気付く。
バッシュが装備している槍の先端は彼が攻撃を繰り出そうとした時、この世界には存在しないはずの削岩機のように刃が回転を始め、内へ向けて繰り出される。それに対してナイは咄嗟に反魔の盾で防ごうとするが、逆に刃に触れた途端に弾かれてしまう。
「うわっ!?」
「せいりゃあっ!!」
気合の雄叫びと共にバッシュはナイの反魔の盾を弾き返した後、大盾を突き出してナイの身体を吹き飛ばす。ナイは地面に転がり込み、苦痛の表情を浮かべるがすぐに起き上がる。
いったい何が起きたのかと戸惑いながらもナイは弾かれた反魔の盾を拾い上げ、まずはバッシュから距離を取る。移動速度は完全にナイが上回っており、バッシュはナイに追撃を仕掛ける事もなく、再び待ち構えるように盾で身を隠す。
「どうした?その程度の力では私に勝てないぞ?」
「くっ……!!」
「馬鹿、焦るんじゃないよ!!冷静さを失ったら勝てる勝負も勝てないよ!!」
バッシュの挑発に対してナイは悔しく思うが、ここで場外のテンが声をかける。彼女の言葉を聞いてナイも落ち着き、これまでの出来事を思い返す。
(あの大盾、ただの盾じゃない……攻撃を当てたはずなのにまるで衝撃が通っていなかった。いや、衝撃が地面に伝わって消えたような……)
ナイは最初にバッシュに攻撃を仕掛けた際、全力の一撃を大盾に与えたにも関わらず、攻撃の衝撃が地面に流れたような感覚を覚える。実際に先ほどまでバッシュが経っていた場所の地面には凹みが存在し、どうやらナイの攻撃が大盾に触れた途端に衝撃が地面に流れたように感じられた。
反魔の盾が衝撃を跳ね返す性質を持つのならば、バッシュの所持している大盾は衝撃を地面に受け流す性質を持っているらしく、これでは彼が構えている限りはどんな攻撃を与えようと衝撃は地面に受け流されてしまう。
(あの大盾を壊す事は難しそうだ。だからといって盾で身を守っていない場所を攻撃すれば……)
旋斧の性質上、もしもバッシュが防御を固めていない場所に攻撃を加えたら彼に大怪我を負わせかねない。だからこそナイは防御が最も硬い大盾を狙ったのだが、その大盾が破壊できないのであれば攻撃方法を変えねばならない。
(それにあの槍も普通じゃない……刃が回転する槍なんて初めて見た)
バッシュが所持している槍も普通の槍ではなく、刃がこの世界には存在しないはずの削岩機のように高速回転しながら繰り出される武器などナイも見た事がない。
先ほど反魔の盾が弾かれたのはあの槍の高速回転が原因であり、正面からの攻撃ならばどんな威力であろうと反魔の盾は弾き返すだろう。だが、高速回転しながら放たれる刃に対しては反魔の盾は触れた瞬間に弾かれてしまう。
(あの槍を身体に受けたら抉れる所じゃ済まない……この人は本気で俺を殺しにかかってるんだ)
ナイは改めてバッシュが自分を本気で殺すつもりで戦っている事に気付き、背筋が凍り付く。だが、すぐにナイは気を引き締めて向かい合う。ここで負ければ死ぬとしても引くわけにはいかなかった。
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