閑話 〈疾風のダンのその後〉
――悪徳商人のバーリが捕まってから数日後、彼に協力して悪事を働いていた傭兵のダンは一人だけ逃げ出していた。彼は元は優れた暗殺者であり、屋敷内にてガーゴイル亜種が暴れている隙に上手く逃げ出す。
最も逃げ出した所で彼がバーリに協力して悪事に加担していた事は間違いないため、もう傭兵を名乗って表の世界では生きられない。しかも彼は以前に所属していた闇組織から命を狙われていた。
「はあっ、はあっ……くそ、どうしてこんな事に……」
路地裏にてダンは身体を震わせ、まるで怯えた子供の様に情けない姿だった。傭兵だった頃の彼は自分の強さに自信を抱いていたが、ナイに敗北した事で彼は自信を打ち砕かれる。
相手が子供だからと油断していた、などという言い訳は出来ない。ダンは本気でナイを殺すつもりで挑んだが、彼に返り討ちされた。しかも自分が編み出した「暗殺術」をナイは見ただけで真似たのだ。
「何なんだ、あのガキ……くそ、もう王都にはいられない」
ダンは王都から早くに逃げ出したかったが、生憎と既に彼は指名手配されており、迂闊に表を出歩く事も出来ない。それに彼を狙うのはこの国の兵士だけではなく、ダンが所属していた闇組織も彼を狙いに来るだろう。
バーリにダンが従っていたのは彼から高額の報酬を受け取り、更に彼に誘拐を命じられた女を裏で好きに出来たからという理由もある。しかし、ダンがどうしてバーリに従い続けたのか、それは彼の所属する闇組織の命令だからである。
彼が所属していた闇組織はミイナを誘拐した事でテンに壊滅させられた組織とは別であり、この王都に存在する闇組織の中でも「最少人数」でありながら最も恐れられている組織だった。
『……ダン、しくじったな』
「ひっ!?」
ダンは路地裏の奥から声が聞こえ、彼は首を振り向くとそこには「闇」が広がっていた。どういうわけなのか今夜は満月で夜でも明るいというのに路地裏の奥は暗黒に覆われ、その闇の中から声が響く。
「ま、まさか……止めろ、近づくな」
『お前の腕だけは買っていたんだがな……だが、失敗した人間には死を』
「ひいいっ!?」
暗黒の正体は「黒色の霧」であり、ダンの元に目掛けて霧がどんどんと近付いていく。それを見たダンは悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、そんな彼の前に新たな影が現れた。
「逃がさぬ」
「ひぎぃっ!?」
何者かがダンの前に現れると、腰に差してある刀に手を伸ばし、目にも止まらぬ速さで刃を引き抜く。その攻撃速度はあまりの速さにダンの目では捉えきれず、気づいた時には相手は刀を抜いており、ダンの左腕が切り落とされる。
「ああああっ!?」
「……愚か者が」
『元同胞の情けだ……せめて楽に殺してやろう』
「あがぁっ!?」
左腕を斬られて悲鳴を上げるダンに対し、彼の背後まで黒霧は接近すると、霧の中から腕が伸びてきた。その腕はまるで死人のような肌色で痩せ細っていた。しかし、力強くダンの首元を掴み、後ろから握りしめる。
必死にダンは逃れようとするが徐々に彼の身体は力が入らなくなり、どんどんと身体が痩せ細っていく。その様子を見た刀を所持した人物は眉をしかめるが、やがてダンはミイラのように痩せ細っていく。
「あ、がぁっ……」
「……楽に殺すのではなかったのか」
『おっと、いつもの癖でな……悪いが止めを頼む』
闇の中から伸びてきた腕はダンを手放した瞬間、ダンは地面に向けて倒れ込む。その瞬間に刀を持った人物は鞘から刃を抜き取り、首筋を切り裂く。頭と胴体が切り離れたダンが地面に落ちる頃には既に刀は鞘に戻っていた。
ダンの死を確認した霧を操る人物と剣士は彼をその場に放置し、黙って立ち去る。その後、ダンの死体は一般人に発見されたが、原型を留めていない程に痩せ細った彼を見て誰も死体の正体が疾風のダンと呼ばれた男だとは気づく事はなかったという。
※今回は短めの話もありましたので急遽投稿しました。(´・ω・)ゴメンナサイ
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