第214話 ヒナの秘密
「ナイ君、もう大丈夫だからね。こんな怪我、すぐに私が治してあげるから!!」
「治すって……」
自分を抱き上げるモモの言葉にナイはある事を思い出す。それは宿屋にヒイロが駆けつけてきた際、重傷を負っていた彼女をモモが治療していた。だが、彼女は回復魔法を扱えないと言っていたが、それならばどんな方法でヒイロを治療したのかはナイも気になっていた。
モモはナイの胸元に手を押し当てた状態で意識を集中させるように瞼を閉じると、唐突に彼女の掌を通してナイは身体の中に何かが送り込まれる感覚に陥る。
「うっ……!?」
「大丈夫、動かないで……今、治してあげるからね」
「ふぐっ……」
幼い子供をあやすようにモモは優しくナイを抱き上げ、この際に彼女の胸元が顔に押し当てられたナイはちょっと恥ずかしかったが、徐々に全身の痛みが消えていく。
(この感覚……まさか、魔力を送り込んでいるのか?)
先ほどまで尽きかけていたはずの魔力が溢れていく事にナイは気づき、すぐにナイはモモが自分の魔力を送り込んでいる事に気付く。彼女は自分の魔力をナイに分け与え、さらにそれを利用してナイの肉体の再生機能を強化させているのだ。
原理は回復魔法と一緒ではあるが、本来ならば回復魔法は陽光教会で儀式を受けなければ扱えない。しかし、モモの場合は儀式を受けずに魔力を送り込む術を身に付けている様子だった。
(身体の痛みが引いていく……いや、それどころか疲れも消えた。それに凄く暖かくて気持ちいい)
モモが送り込む魔力のお陰でナイの怪我は治り、更に体力や魔力も取り戻す。魔力が回復すれば体力も自動的に回復するらしく、ナイは肉体の怪我の再生だけではなく体力も回復させた状態で起き上がる。
「凄い……怪我が治った、それに力が溢れてくる」
「はあっ……さ、流石に疲れたよ。もう私も限界……」
「大丈夫!?」
だが、ナイに魔力を送り込んだ影響かモモは酷く疲れた様子であり、そんな彼女をナイは座らせると、ここでモモは思い出したように指差す。
「ほら、あそこ……ビャク君が持ってきてくれた剣と盾があるよ」
「あっ……まさか、これも運んでくれたの?」
「うん、ビャク君が口で咥えていたから涎も付いてるけど……」
「あいつめ……」
モモが指差した先には旋斧とゴマンの盾が置かれており、どうやら彼女がビャクの代わりにここまで運んできてくれたらしい。ナイはそれを手にする前にモモを抱き上げ、彼女を安全な場所に避難させる。
「ありがとう、モモ」
「あっ……男の子にお姫様抱っこされるの初めてかも」
自分を持ち上げるナイに対してモモは頬を赤らめ、そんな彼女にナイは不思議に思いながらも壁際の方へ移動させる。そして改めて旋斧と盾を装備しようとした時、ここでモモが思い出したように告げた。
「あ、待って……その格好じゃ戦いにくいよね、だからこれを着た方が良いと思う」
「え、それは?」
「少し前に色々と部屋を見て回ったでしょ?その時に見つけたんだ……女の子の格好も可愛いけど、こっちの服もナイ君に似合うと思って」
「何処に隠し持ってたの……?」
モモは屋敷の中で見つけた男物の服を差し出すと、ナイはそれを受け取る。よくよく考えれば自分は未だに女物の給仕服で戦っていた事を思い出し、戦う時に動きにくいと感じていたのは服のせいかもしれない。
すぐにナイは着替えを行い、男物の服に着替えて自分の本来の武器を取り戻す。今回は腕鉄鋼は持ち合わせていないため、左腕に盾を装着し、右手に旋斧を握りしめる。そして退魔刀の方は左腕に持ち直すと、旋斧と退魔刀の二刀流となる。
『シャアアアッ!!』
「ウォオオンッ!!」
屋敷の外からは未だにガーゴイル亜種とビャクの荒そう声が聞こえ、どうやらビャクが善戦しているらしく、ガーゴイル亜種に対して恐れもせずに立ち向かう。その様子を見てナイはすぐに向かわなければならないと思い、モモに振り返る。
「ありがとう、モモ!!必ず迎えに来るからここで待ってて!!」
「うん、待ってるよ……でも、気を付けてね」
「大丈夫……今なら誰にも負ける気がしない」
決して自惚れではなく、ナイはモモのお陰で怪我も完全に治り、更に疲労も抜けて万全の体調に戻っていた。この状態ならば赤毛熊だろうとなんだろうとどんな敵と戦っても負ける気がしない。
この場にモモを置いてナイはガーゴイル亜種の元へ向かおうとした時、ここで崩壊した壁を乗り越えて3つの影が入り込む。それを確認したナイは咄嗟にモモへ振り返り、彼女を守るために駆け出す。
「危ない!!」
「きゃあっ!?」
『ギャギャギャッ!!』
建物に侵入してきたのは3体のガーゴイルであり、先ほどの戦闘でガーゴイル亜種に脅されて離れたと思われた3体のガーゴイルが屋敷の中に入り込む。
どうやらガーゴイル達の目的はモモらしく、彼女の元へ迫る。それを確認したナイは旋斧と退魔刀を振りかざし、ガーゴイル達を追い払う。
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