第213話 折れぬ心
「はぁああああっ!!」
『ッ……!?』
気合の雄叫びを上げながらナイは退魔刀を振りかざし、ガーゴイル亜種の背中に目掛けて振り下ろす。子供の頃に巨岩を前に旋斧を叩きつけて破壊してきた事を思い返し、全身の力を込めて刃を放つ。
しかし、背後から聞こえた声に対してガーゴイル亜種は咄嗟に背中の翼を広げ、大きく羽ばたかせる。その結果、風圧が発生して刃を繰り出そうとしたナイの体勢が崩され、思う通りに刃を叩きつける事ができなかった。
「うわっ!?」
『シャアアッ!!』
「ナイ、危ない!?」
「避けてください!?」
退魔刀はガーゴイル亜種の肉体に弾かれてしまい、体勢を崩したナイに対してガーゴイル亜種は顔面に張り付いた炎を掻き消すと、ナイを見下ろす。ナイの方は全力で繰り出した攻撃が失敗した事により、顔色を青くさせる。
(まずい!!防御しないと……)
咄嗟にナイは退魔刀で身を防ごうとするが、それに対してガーゴイル亜種は右足を大きく振りかざすと、ナイの身体を蹴り飛ばす。そのあまりの威力に盾代わりに利用した退魔刀は吹き飛び、ナイの身体も壁が崩壊した屋敷の方へと飛び込む。
今までの人生で恐らくは最大の衝撃がナイの身体へと襲い掛かり、ナイは屋敷の内部へと転がり込む。その様子を見ていたヒイロとミイナは唖然とするが、すぐに二人は怒りの表情を浮かべる。
「よ、よくもナイさんを!!」
「殺すっ!!」
『シャアアアッ!!』
二人はナイを蹴り飛ばしたガーゴイル亜種に向けて切りかかるが、それに対してガーゴイル亜種は彼女達を押し潰そうと腕を振りかざす。
「がはぁっ……」
その一方でナイの方は建物の中で身体を動かす事も出来ず、あまりの痛みに気絶しそうになるが、どうにか意識を保つ。ここで気を失えば確実な死が待ち構えており、何としてもナイは生き延びるために精神を集中させる。
(もう一度、身体を治すんだ……)
魔操術を利用してナイは肉体の再生機能を活発化させ、怪我の治療を行おうとした。だが、今回の場合は怪我は表面だけではなく、骨の方も影響を受けている。ここまでの大怪我を魔操術で治した事など一度もない。
ここまでの連戦でナイ自身の魔力も大分消耗しており、怪我を治す事が出来ても魔力が枯渇すれば意識は保てず、しばらくの間は目を覚まさない。それでもナイはどうにかガーゴイル亜種に立ち向かうため、魔力を集中させた。
(このままだと皆、殺される……あいつを倒さないと)
聖属性の魔力全身に駆け巡らせながらナイは肉体の再生機能を強化させ、治療を行う。ナイの全身が光り輝き、再生が行われていく。しかし、魔力が足りないせいか徐々に身体の光が弱まっていく。
(駄目だ、魔力がもう……)
自分には魔力が殆ど残されていない事を自覚したナイは諦めかけた時、誰かが自分を覗き込んでいる事に気付く。いったい誰だと思ったナイは目を開くと、そこには見知った顔があった。
「あ、起きたよ!!良かった、まだ生きてた!!」
「モモ……?」
ナイを抱き上げていたのは先に馬車でヒナと共に逃げたはずのモモであり、どうして彼女がここにいるのかとナイは戸惑うが、この時に遠くの方から聞き覚えのある鳴き声が響く。
――ウォオオンッ!!
屋敷の中に狼の声が響き、驚いたナイはモモに抱き上げられた状態で顔を向けると、そこにはガーゴイル亜種と向き合うビャクの姿が存在した。ビャクはガーゴイル亜種に対して威嚇する様に毛を逆立たせた状態で睨みつけていた。
どうして宿屋に置いてきたはずのビャクがここにいるのかと思ったナイだが、その間にもモモはナイの身体を抱き上げ、彼の胸元に手を伸ばす。
「ノイちゃんはもう大丈夫、あの悪いおじさん達もヒナちゃんが警備兵に突き出してくれたからもう平気だよ」
「警備兵に……?」
「うん、もう屋敷の近くまで警備兵の人たちが集まってたんだ。だから私達もすぐに保護されそうになったんだけど……ビャク君がナイ君の剣と盾を持ってここへ駆けつけてきたの」
モモによると屋敷を抜け出した後、すぐに彼女達は屋敷の近くにまで迫っていた警備兵の集団と遭遇したらしい。そこでヒナはバーリを突き出し、彼の悪事をノイとモウタツが証明した。
バーリは即座に拘束され、モウタツの方も捕まったが、ノイは無事に保護されたという。そのままヒナとモモも事情聴取という名目で彼等に連れて行かれようとしたが、この時にモモは偶然にもビャクを見かけたという。
ビャクはどうやらガーゴイル亜種の咆哮を耳にしてナイの危険を感じ取り、彼の武器と防具を持ちだして出てきたらしい。それを知ったモモはヒナに後の事は任せて自分もビャクの後に続き、戻って来たと言う。
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