第212話 ガーゴイル亜種
「ここに来て敵の親玉まで現れるなんて……今日は本当に厄日」
「泣き言を言っている暇はありませんよ。こうなったら死力を尽くして戦うまでです!!」
「くっ……流石にこれはきついかも」
『フゥッ……フゥッ……』
鼻息を鳴らしながらガーゴイル亜種はナイ達に視線を向け、特に退魔刀を抱えているナイを睨みつける。どうして自分を見ているのかとナイは思ったが、ガーゴイル亜種が視線を向けているのは退魔刀である事に気付く。
(この剣を見ているのか?いったいどうして……)
どうして自分ではなく、武器の方を見ているのかとナイは不思議に思ったが、ガーゴイル亜種は背中の翼を広げると、赤毛熊よりも凄まじい咆哮を放つ。
――シャアアアアアッ!!
街中に響き渡る程の大音量の咆哮にナイ達は耳元を抑え、遂にガーゴイル亜種は動き出す。他のガーゴイル達は逃げる様に距離を取り、真っ先にガーゴイル亜種はナイへ向けて腕を振りかざす。
自分に向かってくるガーゴイル亜種に対してナイは攻撃を受け切れないと判断し、避けるために「跳躍」の技能を発動させて後方へ跳ぶ。他の二人も回避行動に移るが、ガーゴイル亜種の振り下ろした腕は地面にめり込み、強烈な衝撃と土煙が舞い上がる。
『シャアアッ……!!』
「くそっ……」
「ナイ、逃げて!!」
「次の攻撃が来ますよ!?」
跳躍でどうにか攻撃は回避したナイだったが、それを見た二人は注意すると、直後に土煙を振り払いながらガーゴイル亜種がナイの元へ向かう。今度は反対の腕を振りかざし、ナイへ振り下ろす。
『シャギャアッ!!』
「うわぁっ!?」
咄嗟にナイは身体を伏せて攻撃を躱すと、彼の背後に存在した樹木がガーゴイル亜種の鋭い爪によって切り裂かれ、崩れ落ちる。危うく倒木に押し潰されそうになったナイは身体を転がして避ける事に成功するが、一撃で樹木をなぎ倒したガーゴイル亜種の力に冷や汗を流す。
腕力に関しても赤毛熊か、それ以上の力を誇るらしく、更にガーゴイル亜種は破壊した樹木に視線を向けて手を伸ばす。何をするつもりなのかとナイは警戒すると、あろうことかガーゴイル亜種は破壊した樹木を持ち上げて武器として扱う。
『フンッ!!』
「うわっ!?」
樹木を棍棒代わりに利用して叩きつけてきたガーゴイル亜種に対してナイは必死に避けるが、もう体力の限界は近い。どうにかしなければならないの頭でわかっていても身体が思うように言う事を聞かない。
(このままだとまずい、どうにかしないと……)
ナイはガーゴイル亜種を倒す方法を考えるが、この状況下では倒せる手段が思いつかない。体力も魔力も限界が近く、しかも相手はただのガーゴイルではなく、より凶悪な力を持つ亜種となると勝ち目があるとは思えない。
(諦めるな!!考えろ、でないと死ぬんだぞ!!)
諦めかけている自分自身を叱咤しながらもナイは必死に対抗手段を考えるが、この時にガーゴイル亜種の背後から近づく影が存在した。それは如意斧を掲げたミイナであり、彼女の後方にはヒイロも続く。
「ヒイロ、私に合わせて!!」
「分かってますよ!!」
『ッ……!?』
後方から聞こえてきた声にガーゴイル亜種は振り返ると、そこには如意斧を振りかざすミイナの姿が存在した。だが、ミイナとガーゴイル亜種の間の距離は離れており、普通ならば彼女の攻撃は届くはずがなかった。
しかし、斧を振りかざした瞬間にミイナの如意斧の柄の部分が伸びると、刃がガーゴイル亜種の頭部に目掛けて放たれる。武器の間合いが伸びた事にガーゴイル亜種は驚くが、咄嗟に手にしていた樹木で戦斧の刃を受け止める。
『シャアッ……!?』
「くっ……ヒイロ!!」
「はぁあああっ!!」
樹木によってミイナの如意斧は防がれてしまったが、その間にヒイロはミイナの如意斧の柄の部分を足場にして駆け上がると、ガーゴイル亜種の上空へと移動を行う。獣人族並の身軽な動作にナイは驚くが、ヒイロはガーゴイル亜種に目掛けて烈火を振り下ろす。
「烈火斬!!」
『アガァッ!?』
「やった!?」
刀身に炎を纏った状態でヒイロはガーゴイル亜種の顔面を斬りつけると、炎がガーゴイル亜種の顔に広がり、悲鳴を漏らしながらガーゴイル亜種は膝を着く。
普通の生物ならば顔面を焼かれれば無事では済まないが、相手は石像の化物であり、炎で焼かれても致命傷にはなり得ない。だが、炎によって視界を塞がれた事でガーゴイル亜種は隙を作り、この好機を逃さずにナイは退魔刀を振りかざす。
(この一撃で仕留めるんだ!!)
ナイはガーゴイル亜種の背中に向けて退魔刀を振りかざし、剛力を発動させて渾身の一撃を繰り出そうとした。
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